2007年08月28日

Let's Go陰陽師(’S)。1 『陽の章』。

「しかし、指輪を打ち砕くというなら、力はまるきし役に立たん。(中略)
たった一つ方法がある。火の山、オロドルインの火口の底の滅びの罅裂を見つけだし、その中に指輪を投げ込むのじゃ。その指輪をこの世からなくし、永遠にわしらの敵の手の届かぬ所に置きたいと、しんからあんたが願っているのならば。」
(『指輪物語 旅の仲間 上』J.R.Rトールキン著、瀬田貞二・田中明子訳より)


 弘法筆を選ばすというが、それは嘘だ。名手ほど、道具にはこだわりを持つ。イチローにせよウッズにせよ、ミズノやナイキの最高の職人がマンツーマンで専門につき、彼らにあった最高の道具をカスタマイズしている。世界最高と謳われるソリストは、家を売ってでもストラディヴァリウスを手に入れようとする。

 それは古来から同じ。そして、その選ばれた英雄のもとには、選ばれた伝説の武具が訪れると決まっている。ヤマトタケルには草薙剣が。源頼光には童子切安綱が。クー・フーリンにはゲイボルグが。勇者の手にはロトの剣が。

うむ、最後のはちょっと違う。

 そして、物には「収まるべき場所」がある。いわくの武具は収めらるるべき場所に収められ、ようやく伝説を完成させるのだ。湖の妖精の元に戻ったエクスカリバーのように。

 俺は、目の前にあるブツをじっと見た。イカしたクマの絵が描かれたカップラーメン。そう! 以前『日清カップラーメン発明記念館』に行った時作ったカップメンである!!

Lets Go陰陽師(’S)。1 『陽の章』。

 このぷりちーな絵が描かれたカップメン。しかし、賞味期限がもうすぐだ。俺は思った。旅立たねばならない。このカップメンにふさわしい場所で、このカップメンは喰らわれねばならない・・・!!!


 そして、我々は奈良の山奥へと向かった!!!(なぜ) メンバーは俺とM先輩、友人Mに、M先輩の友人であるBさんである。


「いやあいい天気ですな!」
「まったくまったく」
「しかし、女の子来るなら『ぐりとぐらのあのケーキ』作るとかにしても良かったかもしれんなー」
「なんじゃそりゃー!?」
「いや、ダチョウの卵でね・・・」

 相変わらず、そんな話をしながら俺たちは車中の人になった。向かうは前鬼不動滝。奈良の中でも超山奥であり、道路ができるまで訪れる人もまれだったというかつての修験道の聖地である。この地名の「前鬼」も、このあたりの人々はかの安部清明が使役した式神「前鬼」の子孫であるという伝承から名づけられたのだという。

 3時間近い行程を経て、俺たちは前鬼へとたどり着いた。車を停めて、荷物を担ぎ、さあ行くぜ!

「思ったより降りるの大変だねー」
「急な道、だいぶあるね」

 思ったより急峻な道をえいえいと降りていく。かついだ荷物が肩へと食い込む。右に左に折れ曲がる道を、100mほども下ったろうか。そして。

「おおー!!」

 開いた景色に、俺たちは歓声を上げた。緑したたる、という表現が相応しい山間に、澄み渡った清流が流れていた。

「お、これこれ」
「おお! 確かに橋が見事に壊れとる! 台風!?」
「そうそう。自然は偉大ですなー」
「ですなー」
「――って足に蛭がーッ!? 蛭がー!?」
「うわああああ、俺の足にもー!!!」

Lets Go陰陽師(’S)。1 『陽の章』。

などという会話を挟みつつ、昼飯を食う場所を探す。河原で適当に、とか思ってたら、どでかい岩を発見。これがまた、あつらえたみてえにピッタリなんだ! 中央部がうまくヘコんでて、しかも平ら。バーナーが設置しやすく、しかも火ぃ焚いても風よけになってくれると来たもんだ。ありがとう自然!!

 火を焚き、お湯を沸かす。もっと早く沸くかと思ったが、火力が足りないのか、思ったより付くのが遅い。

 待ってる間、川の渡りやすい場所を探してくると、M先輩が川へざぷざぷ歩いていった。それをBさんが横で見ている。

「どうですかー! いい場所ありますかー!!」
「んー! 思ったより深いぞー!!」

 せせらぎの音にかき消されるのか、二人は大声で叫び合っていた。うひょー、冷めて!と言いつつM先輩がざぱざぱ歩く小川の水は、遠くから見てもバカみたいに澄んでいた。

 空には、雲一つ無い。湯の沸くのを待ちくたびれた友人Mが、スモークチーズをあてに、冷えたビールをぷしゅりと空けた。やがて、湯が沸いた。おのおの、自分が用意したカップメンに湯を入れて、3分間。三々五々に食い始める。旨かった。俺は汁まで飲み干して、ごちそうさま、と手を合わせた。それが、クマとの別れだった。

Lets Go陰陽師(’S)。1 『陽の章』。

 M先輩が、岩の上に転がる。ちょっと失礼するぜ、と言って、程なく寝息を立て始めた。Bさんはその横で、せせらぎと川を渡る風に耳傾けているように見えた。俺はあまったお湯をドリップバッグのコーヒーにそそぎ、道の駅で買った水饅頭をほおばった。友人Mは、2本目のビールを空けている。

 遠くで、蝉の鳴く声が聞こえる。川面はキラキラと輝き、緑を映して飽かず流れていく。俺は、もう一度空を仰ぐと、コーヒーのお代わりをした。

(続く)


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