2008年01月14日

風雲録。「鬼狩り士」完結編




「骨ッ! 骨がーッ!?」

 川を飛び越し、イカした写真を撮ろうとジャンプした俺様。その足下に、80cmはあろうとかいう大きな骨が転がっていた。なんの生き物かは分からない。俺は慌てて飛び退こうとして、そこが狭い岩場の上だと思い出し、たたらを踏んだ。

「うひーッ!」

 半泣きになって戻ろうとする俺に、友人Sが叫んだ!

「写真!」


 ・・・は?


「写真撮って写真! 骨ーッ!!」

 そう。奴は超ド級の骨マニアだったのだ。

「イヤだっつの! コエエっつの!」
「いいから! 早く!!」


 な に が い い ん だ 。


 そりゃアンタはいいだろうよ! ああ、気持ち悪い。仕方ないので頑張って写真を撮りました。さらに頑張って滝の写真も撮った俺もえらいと思います。

 ジャンプして戻り、撮った写真を見た友人Sはこう言いました。


「あんまり好みの骨じゃないなー。どうでもいいや」


 鬼だ! ここに鬼がいるよ! 鬼の首のミイラは見れなかったけど、本物が見れたよ! チルチルミチルの青い鳥はおうちにいたけど、鬼も身近にいるんだね! すごいや!


「なんか言った?」
「いえ別に」


 そして山を下った俺たちは、そのまま次の目的地、大滝鍾乳洞(http://www13.ocn.ne.jp/~ootaki/)へ向かった。

 大滝鍾乳洞は郡上八幡そばにある鍾乳洞で、その名の通り、なんと中に滝があるという珍しい鍾乳洞である。しかも、入り口まではケーブルカーで登るという。なんて心躍る設定であろうか!

 ただ、ここのHP。「愛地球博を前にスペシャルプランをご用意しました!(ちょっと気が早い?)」とか「夏向けご家族様プラン!」とか、「いつから放置されてんねんオイ!」って場末感バリバリのHPだったのである。本当に営業してるのであろうか。途中にあった釣り堀でご飯を食べると、ちゃっかり印刷していったWeb割引券を握りしめながら、我々はかなりドキドキしながら鍾乳洞へ向かった。
※HP、先日更新されたみたいでマトモになってました


 大滝鍾乳洞近辺は、思ったよりメジャーな観光地になっていた。バスもとめられる大きな駐車場。何軒かの宿。そして、お食事どころ。昔、この近くの洞窟にケイビングに来たけど(http://www.odss.co.jp/gifu/carving/carving01.htm)あそこはもっとコンパクトだったけどなあ。まあ、こっちもうら寂れ感には溢れておりましたけれども。

 営業もちゃんとやっていたので、割引券出して中に入った。チケットをもらって前へ進むと、おお、確かにケーブルカーが前に待っている。昔は材木でも運んでいたのだろうか。10人程度が乗れそうな、屋根のついた緑の車体。おじさんがニッコリ笑っていった。どうぞ。



 歓声を上げて乗り込む。一番前の席に陣取り、さあ出発進行!

 がたん、と重い音を立てて、ケーブルカーは動き出した。引っ張り上げられる。ほんの2、3分ほどの小旅行。うずうずする身体を木製のベンチに押し込み、着くやいなや飛び出した。ああ、写真に撮りたいのに、構図的に収まる場所がない! おのれ! あきらめて歩き出した俺たちをあざ笑うように、一つの看板が光っていた。



「お帰りは徒歩です」


 いやわざわざ、そんなご立派な看板にせんでも。苦笑して転じた視線の先には、工事現場によくある、プレハブ立ての事務所にありがちなアルミの安っぽいドアが待っていた。



「えー、・・・まさか?」
「これが入り口かよ!?」


 洞窟やからぽっかり入り口が開いてるかと思いきや、ドアが取付けられていようとは! どこまでも俺たちの予想を裏切ってくれる鍾乳洞だぜ!

 入る前から爆笑を繰り返しつつ、俺たちは扉をくぐった。


「うおー!」


 歓声が上がる。中は予想以上に大きく、そして長かった。次々現れる不思議な光景。ムリヤリ付けられた名前。なんで鍾乳洞ってあんな奇妙な名前付けたがるんだろう。まあ、ソレがなけりゃガンガン進んでいってまわりあんまり見ないのも確かだけどさ。

 奥に進むにつれ、湿度がじわじわと上がり始める。奥からは、ドドドドドという音が響く。ちょろちょろと、流れる水が太さを増して、金属の階段が急角度になって俺たちを小広間に導く。そこには――


 滝!!


 さっき見た御手洗の滝ほどの大きさも迫力もない。しかし、ぽっかりと開けた高い天井から降り注ぐ滝の姿は、十分神秘的だった。滝壺は小さな泉を形成し、壁に刻まれた不動明王と脇侍がそれを見守る。そばの水飲み場に設けられたコップですくった水は、かすかに苦いような、ザラザラとした舌触りがあった。

 そこから、歩くことさらに10数分。息苦しいほど満ちていた湿度が和らいだその先に、出口が待っていた。


「ぷはー」
「いやあ、思ったより良かったねえ!」
「うん! これは来た甲斐があった!」


 山道を下りながら、口々に言い合う。自然の造形の妙には、まったく驚かされる。まあでも、一番驚かされたのはあの入り口だったけどな! なぜ工事現場風!?

 それにしても、あそこで停電したら余裕で死ねるな。うん。


 その後は、郡上八幡に戻って郡上八幡城の見物。

 そろそろ閉館も近いってことで、急いで向かった。城自体はそれ程昔の面影を残してるわけでもなくボチボチなのだが、上にあった企画がなんつーか。

 行った当時、絶賛放映中であったNHK大河ドラマ『功名が辻』の主人公“お千代”が、郡上の生まれであるという説があるってんで、それにあわせて『賢妻の心得十カ条』なる「賢妻と呼ばれた千代の知恵を現代でも通じることばで紹介」ってイベントがされてたんですけど、これがもう!

 「男はいくつになっても子供なので、子供に接するようにして育てましょう」とか、「男は強い女を嫌うもの。男の前では弱い女性を演じましょう」とか、「夫の上司とその家族に好かれるようにしましょう」とか、「賢妻」と言うよりそれただの腹黒じゃねえの?的な身も蓋もない言葉がズラリ。あんなん見てたら、恐くて結婚なんざできねえよ! 見てなくても結婚できてませんけど! なに? 「できるけどしない」と「できない」の間には巨大な溝が――って巨大なお世話だ。


 その後、はじめて郡上八幡に来た友人Mのために、街を散策。宗祇水や飛びこみで知られる新橋などを訪ねた後、前に来た時にも寄った鉄板料理「泉坂」で食事。ここのご飯は本当に美味しい。前に来た時にはカウンターだったんで、作ってるのを目の前で見れて面白かったんだが、今回は奥座敷。ゆっくりはできたけど、ちょっと残念であった。目の前で、いろいろ作ってる手さばき見たり、美味しそうな料理見て「それなんですか?」「それ一つ俺たちも!」みたいなやりとりができるのもやっぱり楽しいしね。

 おいしいごはんをお腹いっぱいに食べて、岐阜旅行終了。帰途に就きました。ああ、楽しかった。

 次のリベンジのさいには、どこに行くかな。そろそろこの近辺は行き尽くした感があるからなあ。なんかのイベントとからめるかな?

 次回こそ鬼の首のミイラが見たいな。今回は人の皮をかぶった鬼しか見れなかったからな! いや誰のこととは言いませんが!


「なんか言った?」
「いえ別に」


 岐阜は今日も日本晴れだ。


 おしまい。  


2008年01月13日

風雲録。「鬼狩り士」後編




 「 本 日 は 法 要 中 に つ き 鬼 の 首 拝 観 は で き ま せ ん 」


・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。


「うがーッ!!」
「ああ! 友人Sが壊れた!?」
「止めろ止めろー!!」


 とゆーわけで。我々はいきなり行き詰まっていた。まあ、お寺だもんね! しかも、超ビッグな京都のお寺とかじゃないもんね! そんなこともあるよね!


「住職さん、帰ってこないかな?」
「法事昼で終わるとかでね!」
「この辺、お墓にお坊さんの像が立ってたり、神社も小さいのがたくさんあって信仰心厚そうだったからなあ。ムリだろうなあ」


 いつも立ち寄る寺や神社が、ある程度大きいとこばっかりだったんで、そんなこと考えもしてなかった。まさしく想定の範囲外ですよ! くそう鬼め! 俺たちを恐れて逃げやがったな! ああ、俺の鬼娘が! ツリ目のツンデレっ娘が!!

 次回来るときには、ちゃんと問い合わせしてから来よう。ショックで虚脱状態の友人Sを車に乗せつつ、俺たちはそう誓った。


「じゃあ、戻りますか」
「しゃあないねえ」


 ブルルンルン。


 走り出し、しばらくたって気が付いた。

「あ、滝、滝!!」
「え? 行くの?」
「行かいでか! せめて滝でも行かねば負けた気分満載じゃないですか!」
「んー、まあいいか。どっちにする? 確か二つあったよね?」
「そうね。鬼の首が見れず、ショックな友人Sに選ばしてやろう!」
「え!? あ!? じゃ、じゃあ御手洗の滝で! こっちのがかっこよさそうやし!」
「ラジャー!!」

 俺たちは速攻気を取り直し、御手洗の滝探索へと気持ちを切り替えた。決断は遅いが、気持ちの切り替えは早いのが我々の取り柄である。記憶力が微妙で、あまり古いこと覚えてられんのだ。さあ行くぜGo! Go!! 山越え川越えオーバーザレインボウ! 鳴かせてみせようヤンバルクイナ!! って、なんかスゴイ道になってきましたよ友人Oさん! 林道やで!? 降りて歩いた方がいいんじゃ!?

「大丈夫。行ける行ける」

 君のその自信はどこから湧いてくるのか。まあ、いいや。さっきの寺のことはもう克服したんだね。落ち込んでいた君はもういないんだね。少年は今、大人になったんだー!!

 ガリゴリ。


「ぐわー! 枝でクルマ擦ったー!!」


 も っ と 落 ち 込 ん だ 。


 大人はまた少年になった。まさに思い起こす少年のハート!(違います)

 友人Oは思ったより車を愛している人だったらしい。車なんて傷が付いてナンボですよ! 俺の前の愛車のソアラ号なんざ、横がえぐれて錆びてたぞ? 左ッ側のドアなんて、レバー折られて中から開かなかったしな。おかげで目的地に着くたびに俺がドア開けに走って、「リムジン仕様」なんて言われてたくらいだ。なに? それは行きすぎだ? おっしゃる通りだ。


「これ以上は道荒れまくりだから車はダメよん」(意訳)


 そんな看板を見つけたこともあって、俺たちはようやく車を降りた。ここから先は徒歩である。俺たちはいつものことだからいいとして、友人Mが一瞬「マジかい!?」って表情をした気がして、ちょっと気がとがめたが、気が付かないふりして行くことにした。(おい)


 さあ、ドカドカ歩くよー。


 颯爽と俺たちは歩き出した。うーん、まわり杉だらけ。花粉症の時期にだけは来たくねえなあ。地面も一面の杉の落ち葉で、真っ赤に染まってやがるよ。とりあえずアスファルトで舗装された道を登っていこう。つかこの滝、全然情報無かったんだけど、どこまで行けば見れるんかなあ。

 そんなことを思いつつ、歩くこと十分。我々は緩やかにカーブした道を曲がり。そして。


「なんじゃこりゃー!!!!!11」


 叫んだ。


 一 面 倒 木 だ ら け 。


 ・・・ここはどこのニューオーリンズですか?



 おそらく大雪で倒れまくったのだろう。それも一本や二本ではない。十本や二十本どころでもない。まさしくゴロゴロ転がっている。


「ちょっと俺、先見てくる!」


 そう言って友人Oが駆けだした。そして、ややあって息を切らして降りてくる。


「アカン。この先ずっとこんな感じ!」


 おそらく、シーズンになるとこの木を撤去して、道を整備するのだろう。そして、俺たちが来たのはシーズン前だった、と。俺も色んな滝を見に行ってきたが、こんな道は初めてだ。

 中止するか? 一瞬、皆の顔を、そんな思いがよぎった。男二人はいいとしても、やはり女性陣が。特に友人Mは旅行ビギナー。さすがにこれはツラいんではなかろーか? そんな時、おねいさんが言った。


「ううん、もうちょっと行ってみようよ」


 その言葉に、友人Mも頷く。おお! マジですか! 俺としてはこんなの逆に「おいしい」シチュエーション! むしろ行く気満々ですよ! よく言った! お前ら漢だ!!(女です)

 二人の気が変わらんうちにと、俺は駆けだした。こんな時、「気を遣うなよ。女性にゃきついだろう? 戻ろう」なんて口が裂けても言わない俺様である。自己中もここまでいくといっそ清々しい。俺はそんな自分を誇りに思いながら、山深い森の澄み通った景色の中を駆け抜けていった。


「ぐへー。どへー。脇腹がッ! 脇腹がッ!!」


 ・・・すぐに走れなくなったけど。


 転がりまくる倒木を乗り越えつつ、そこから20分も登ったあたりだろうか? 右手に5、6台止められるような駐車場が設けられた広場に、俺たちはたどりついた。シーズンともなれば、ここまで車で来れるのだろう。そして、ここからが遊歩道の始まりというわけだ。やっと目的地のとば口に立っただけとはいえ、目的地までの距離が具体的に分かったのはありがたい。ここからは川沿いの砂利道。足下に気を付けながら着いてきやがれ皆の衆ー!! ドララーッ!!


 と軽やかに歩き出したものの、これがなかなか大変だった。舗装されたアスファルトの道でもあれだけ大変だったのである。ましてや砂利道と来ては。


「うお、川危ねー! 飛び越えんのかよ!」
「根っこが! 根っこが!」
「なにこのデケえ倒木! くぐんの!? くぐんの!?」

 気分はまさに川口広探検隊。脳に響くのは嘉門達夫のあの歌である。川口広が~♪


 そうやって歩くこと30分。俺たちはようやく御手洗の滝へたどり着いた。


「いつもこんなとこ見に来てるんですか!?」
「いや、今日のはさすがに特別」


 初旅行でこんなの体験させられた友人M。つくづく業の深い人である。まあ、だからと言って謝る気は全然無いがな! 自己中もここまで行くと以下略!

 そして。巨大な木の根っこをくぐり抜けた俺たちは、ようやく目指す御手洗の滝へとたどり着いた。


「すげー!!」


 思わず歓声を上げる。これはいい滝だ! デカイし、かなり近くまで寄ることも出来る! 夏なら、滝壺で泳ぐことすら可能だろう。ああ、暖かくなってからまた来たいなあ。

 とりあえず写真だ写真。ケータイを握りしめ、ベストポジションを捜す俺。ううん、全体がなかなか入らないなあ。あ、向こう岸、いい感じだ。わたろっと。


「滑るよ! 危ないって」
「やめときなって!」


 だいじょぶだいじょぶ。根拠はないけどダイジョブ! とりゃ!

 向こう岸めがけて軽やかに俺は飛び。そして。


「うぎゃあああああーーーーーーーーーッ!!!!!!」


 俺は叫び声を上げた!

(続く)  


2008年01月13日

風雲録「鬼狩り士。」中編


 美濃橋は確かに良かった。満足だった。しかし、奴はこの旅程の中では一番の小物よ! 満足などという言葉は、この次鋒「蛇穴」を味わってから言ってもらおう! ゴゴゴゴゴ!!!!


 とゆーわけで。


 俺たちは「蛇穴」の前にいた。鬼の首のミイラや重ね岩は郡上市和良町というところにあるのだが、トイレに行きがてら道の駅に寄ったら、案内板を見つけたのである。

「『蛇穴』だって! 昔こっから出てきた蛇が空に昇ったんだって! うわー! うわー!」
「・・・行きたいの?」

 行きたくないはずがあろうか! エサを貰うときのチョビのような笑顔で、スゴイ勢いで縦に首を振ってやったら行くことになった。行 か な き ゃ お 前 を 獲 っ て 食 う 。


 まあ、団子はもぐもぐ食ってましたが。「長寿ダンゴ」ってのが売ってたんで食ってみたんですが旨かった。なんでも和良町は先日、日本で一番長寿の町として認定されたので、それにちなんだネーミングなのだという。長寿日本一て、沖縄じゃないのか! こんな身近にあったとは。ビックリですよ。


 風は肌を刺すほど寒かったが、我々はガマンして歩き始めた。





「水がきれいだねえ」
「まったく。あ、ワサビ園!」
「人は通らないねえ」
「車もほとんどこないな」
「そだね。蛇穴じゃあな、と。こっちかな」
「そっちかね? しかし『じゃあな』ってスゴイ名前だよな。ジャアナ地方ってありそう」
「おお! インドとかにぜってえあるよそれ! つか、やっぱアレですよ! ジャアナ一族とかがいて護ってんだぜ!」
「穴を?」
「そうそう! アスラ神軍みたいな鎧着てよう!」
「ゾイドの敵役にもいそうだなあ」
「で、蛇穴を護りつつ支配しててですな。水飲み放題」
「うわー、メリットすくねエー!!」

 しみじみ、地元の方が通りすがらなくて良かったと思う。こんな無礼な会話聞いたら、俺なら軽トラで突っ込む。無罪。


「これが蛇穴ですか!」
「うお! めっちゃカッコええ!」





 あまり期待はしてなかったのに、これが意外に、蛇穴はいい感じであった。

「深い穴だなあ」
「お、コップがあるよコップ! 水のもう水。グビグビ」
「音がいいよなあ。とてもいい感じに響いて」
「お、隣の穴もいいよ! 『蟲師』とかに出てきそう!!」

 あとで友人Oに教えてもらったのだが、ここの水、最近は汚れてきたとかで、地元の人は飲まないのだそうだ。それはまあいいとして、問題はその先。実はこの蛇穴、デカイ鍾乳洞の出口で、その奥には地底湖があるのだという! うおー! 見てえー!!!

 危ないから、ちゃんとした装備でなきゃダメらしいけど。うお、いつか見に行こう。絶対だ!

 満足して引き返す。本当はこのまま遊歩道を歩き、昔の城跡等も見物したかったのだが、あまりの寒さにあきらめたのである。あー、寒。

「あ。なんか倒木が道に!」
「デカイ木だなあ!]
「あっちからでも戻れるかな?」
「合流あっちだし、戻れるんじゃないかな?」
「じゃあ、俺あっちから行くよ! みんな大変だし、来た道戻ってよ。向こうで会おう!」

 と、気を利かして一人で向かったら。


 み ん な つ い て き や が ん の 。


 馬鹿ばっかりですか。あ! ひょっとしてみんな俺と離れるのが寂しいとか!? まったくもう。みんな甘えんぼさんだなあ、ハッハッハ。←馬鹿はお前だ

「うわー、立派な木だねえ」
「(木の幹を押し上げながら)みんな俺が支えている間に先に行け!」
「MADー!! じゃあさいなら」
「ちょっと待てやゴルァーッ!(ゴイン!) グァーッ! 木に頭ぶつけたー!!」
「向こうからおじさん来るって。恥ずかしいって!」

 思ったよりデカイ倒木をワイワイ言いながら乗り越え、俺たちは車へとむかい歩き出した。

「・・・あれ? さっき見かけたおじさん来ない・・・」
「え? 川の方に降りて行ったよね?」
「うん。黒い人影、絶対見たって!」
「俺も見た。え? あれ? 消えた?」
「河童だ。きっと河童だよ!!」

 うひょーい! 旅行の趣旨に相応しい妙な事件を挟みつつ、俺たちは車に乗り込んだ。ブルルンルン。


「あー、車ん中あったかい」
「まったくまったく!」
「城跡見れないのは残念だけどね。――ってアレ!」
「なに? うわ! ウシ!?」
「ウシが何十頭も! ズラーって! ズラーって!!」


 車 ん 中 大 興 奮 。


 ウシでこれほど喜べる大人も珍しかろう。ウシもきっと喜んでくれていることであろう。(多分知ったこっちゃありません)

「そーいや俺ん家の近くにウシ引きのオッサンがいて」
「ほう」
「映画撮るときとか牛車引ける牛って少ないらしくて、おっさんに東京とかからもお願いに来るらしいよ」
「へえ」
「東京遠いからイヤ、つーて断ったらしいけど」
「断んのかよ!」
「で、京都までロケに来るからお願い!って言われて、まあ京都まで来るならいいか、つーて引き受けたらしい」
「技術持ってる人は強いって話ですなあ」

 ワイワイワイ。

 そんなことを話してるうちに、次の目的地「戸隠神社」に着いた。ここが俺の目的地、「重ね岩」のある神社である。





「ひなびた神社だねえ」
「でも、キレイに掃除されてるよ!」
「ひぐらしに出てきそうだなあ」





 天の岩戸の一部と伝えられ、43tもありながら片手で動かせる天下の奇石重ね岩! さあ揺らすぜ! 腕が鳴るなあチリンチリン♪


「 上 に 登 り 岩 を ゆ す る こ と を 禁 止 し ま す 」



 オゥシット。

 そうだよね。危ないもんね。あーーーーうーーーー。

 悔しいので、近くにあった大岩に登ってやりました。降りられなくなりかけました。いやあ、マジで骨折を覚悟したね!

 岩のそばに「境界」って書かれた杭が打ち込まれてたんですけど。危なく渡ってしまうとこでしたよ! あっちの世界行っちゃうとこでしたよ!

 いい年なんだから、そろそろ自分のムリを見極められるようになろう、と思った。うん。それが一番ムリだ。


 あ、重ね岩自体はとてもいい岩でした。動かしてみたかったなあ。

 鳥居がわりであろう赤い鉄杭の並ぶ参道を抜けて、俺たちはもう一つの目的地、「鬼の首」のある念興寺へと向かった。

(続く)  


2008年01月13日

風雲録「鬼狩り士。」前編


 昔の日記。





「ぬっぴょろぴょーん!!」と俺はハードボイルドに叫んだ。


 19日に友人O達と約束していたイチゴ狩り。予約を入れようとネットで予約状況を見たところ、4月1日まで全部予約が埋まっていたのだ。

 ・・・よく考えたら、今春休みだもんなあ。そりゃお子様連れて行くよな。

 ああ! 栗東サンシャイン・ヴィレッジでイチゴ狩りして、あぐりの郷でメロンパン作るというこの俺様の遠大にして完璧な計画が!

 しかし、予約が埋まっているのでは仕方ない。俺は音速で友人Oと友人Sに中止のお知らせメールを送った。でんでろりん。←効果音


『どうすんの~? 完全に中止?』


 程なく、友人Sから返事が届いた。


『イチゴ狩りはね~。他にネタある?』
『ない』

 キッパリ。おお、あいかわらず考える気もない見事な即答。あの瞬間、君の返事は光速を越えたね! やるな!

「なら・・・“鬼”、行く?」
 メールの向こうで、友人Sがニヤリ、と笑うのが見えた気がした。


鬼。
《「おん(隠)」の音変化で、隠れて見えないものの意とも》
[名]

1 仏教、陰陽道(おんようどう)に基づく想像上の怪物。人間の形をして、頭には角を生やし、口は横に裂けて鋭い牙(きば)をもち、裸で腰にトラの皮のふんどしを締める。性質は荒く、手に金棒を握る。地獄には赤鬼・青鬼が住むという。

2 《(1)のような人の意から》

勇猛な人。「―の弁慶」
冷酷で無慈悲な人。「渡る世間に―はない」「心を―にする」
借金取り。債鬼。
あるひとつの事に精魂を傾ける人。「仕事の―」「土俵の―」

3 鬼ごっこや隠れんぼうで、人を捕まえる役。「―さん、こちら」

4 紋所の名。鬼の形をかたどったもの。

5 目に見えない、超自然の存在。
死人の霊魂。精霊。「異域の―となる」
人にたたりをする化け物。もののけ。
「南殿(なんでん)の―の、なにがしの大臣(おとど)脅かしけるたとひ」〈源・夕顔〉

6 飲食物の毒味役。→鬼食(おにく)い →鬼飲(おにの)み
「鬼一口の毒の酒、是より毒の試みを―とは名付けそめつらん」〈浄・枕言葉〉
〔接頭〕名詞に付く。

1 荒々しく勇猛である意を表す。「―将軍」

2 残酷・無慈悲・非情の意を表す。「―婆(ばば)」「―検事」

3 外見が魁偉(かいい)・異形であるさま、また大形であるさまを表す。「―歯」「―やんま」
(大辞泉より)


 言うまでもなく昔話等に頻繁に出てくる、日本人なら知らぬものとてない伝説上の存在である。その、伝説上の存在の首のミイラが岐阜にあるという。それを知ったのは、ひょんなきっかけからだった。

 昨年11月末に、奈良の柳生へ旅行に行った。剣豪の郷で剣豪達の足跡と事跡を忍ぼうという趣旨だったが、俺の目を奪ったのは“石”だった。石舟斎が斬ったと伝えられる一刀石。天の岩戸から飛んできたという天石立神社のご神体。


 岩はいい。


 そう思った俺は、他にもイカス岩はないかと調査を始めた。そこで見つけたのが岐阜にある戸隠神社の「重ね岩」だった。(http://www.warakankou.com/kankospot-iwa.html

 柳生のものと同じく、天の岩戸の欠片が飛んできたと伝えられる「重ね岩」は、その名の通り二つの岩が上下に重なった大岩である。上部の岩は推定42トンの重さがあるというのだが、絶妙のバランスで乗っかっており、なんと片手でグラグラと動かすことができるのだという。まさしく天下の奇石。うおお! 見てみてえ! 動かしてみてえ!!

 「鬼の首のミイラ」がある岐阜念興寺は、そのすぐそばにあったのを偶然見つけたのである。(http://www.warakankou.com/kankospot-oni.html) ま、人生なんてそんなもんだ。


 それにしても鬼の首のミイラとは!

 素晴らしい! やっぱアレかなあ、水掛けるとしゅわしゅわしゅわーって戻って、ツリ目のツンデレっ娘になんの! まあ、魎呼よりは鷲羽ちゃん派なんですけど――って誰も分からない天地無用ネタはさておき。

 大喜びして去年さっそく出かけようとしたのだが、運の悪いことに滋賀では数年に一度級の大雪が降ったため延期。念興寺のある郡上市もけっこう雪が降るところだということで、今まで行けずじまいだったのである。そろそろ雪も減ってきたし、行ってみないかと提案してみたわけだ。


 そして当日。我々は集結した。


 参加者はいつものメンバーである友人O、友人S。俺。それに加え、今回は友人Sのバイト先の友達のパワフル主婦、Mさんが参加した。

「はじめましてMADさん!」
「はじめましてMさん!」
「きゃー、自画像のクマそっくりですね!」

「ハッハッハ、あの自画像はタイ料理かなんかと引き替えに友人Sに書いてもらって超大好評なイラストではありますがどういう意味だこの野郎? 俺はブラッド・ピット似の好青年で声は次元大介で通ってるからそのつもりでシクヨロ!――ってそれはともかく。今日の内容、知ってます?」
「ええ! Sちゃんから聞いてます!」
「岩と鬼の首、それに洞窟探検ですよ? ホントにそんなのでいいの?」
「ええ! めちゃくちゃ楽しみで楽しみで!! 1月からの約束で家族で友達に会うはずだったんですけど、頼み込んで延期して貰いましたよっ」
「そ、そんなに!?」

 自慢ではないが、我々の旅行は大概どうしようもない。今まで「どこそこに旅行に行くんですよ!」つーてうらやましがられた記憶がほとんど無い。今回の鬼の首にせよ岩にせよ洞窟にせよ、普通の旅行ではどっちかってーとサブイベント。つかニッチというかキワモノというか、そう言うネタである。滝や吊り橋ともども、気まぐれで立ち寄ることはあっても、我々のようにそれを目的として行くような奴はそうおらんのである。それをこんなにも楽しみにしていようとは。

 さすが友人Sの友達。類が友を呼んじゃったんだな。つか、もう彼女は「あっち側」の住人なんだな。

 振り向くとそこには、とっくに「あっち側」の住人である友人Sが、久保竣公のようなツラで笑っていた。俺は、ホウ、とため息を漏らした。


 さて。


 メンバーも揃い、俺たちは友人Oの運転で高速に乗った。

「いやあ、いい天気になりましたな」
「まったくまったく」
「昨日はどうなることかと――って、おや雪」
「マジで!? あ、また晴れた」
「と思ったらまた雪」
「晴れた」
「どやねん!」
「ってうわ! 風キツ!」
「トラックがー! トラックがー!?」


 なんだかクルクル変わる天気と横殴りの風に翻弄されつつ我々がまず向かったのは、美濃市の北部に架かる吊り橋「美濃橋」であった。これは現存する近代吊橋としては最古のものとして知られる吊り橋である。なんやしらんが我々、滝とか吊り橋とかが好きでたまらんのである。これだけでメシ10杯はイケる勢いなのである。嘘である。


「着いたー!」(キキーッ)


 友人Oにしては珍しく、ちょっと迷いながらもたどり着いた美濃橋は、吊り橋とは言え非常に堅固なコンクリ作りの橋であった。





「高校の修学バスとか来てますよ」
「こんなん見ておもろいんかなあ」
「揺れそうにないし、風情がないね。ハズレだ!」

 好き勝手なことをほざきながら、俺たちは車を降りた。やはり吊り橋は木製かワイヤー作りに限る。こんなのは吊り橋とゆーよりただの橋だ。

 ガッカリしながら、それでも一応橋を渡ってみる。

「おお、長良川、水キレイだねー」
「シーズンになったら、鵜飼いとか見れるんだろうな」
「見たいねえ」
「だね。お、近くで見るとなかなかいい鉄骨ッぷりじゃないですか」
「赤もいい色だよ」
「風情もいいし、これはいい橋だ!」
「吊り橋はいいねえ!!」


 さ っ き け な し て た の は ど の 口 だ 。


 君子は豹変す。あっさり前言を撤回し、我々は大満足して美濃橋を離れた。

(続く)