2008年01月13日

風雲録「鬼狩り士。」前編


 昔の日記。

風雲録「鬼狩り士。」前編



「ぬっぴょろぴょーん!!」と俺はハードボイルドに叫んだ。


 19日に友人O達と約束していたイチゴ狩り。予約を入れようとネットで予約状況を見たところ、4月1日まで全部予約が埋まっていたのだ。

 ・・・よく考えたら、今春休みだもんなあ。そりゃお子様連れて行くよな。

 ああ! 栗東サンシャイン・ヴィレッジでイチゴ狩りして、あぐりの郷でメロンパン作るというこの俺様の遠大にして完璧な計画が!

 しかし、予約が埋まっているのでは仕方ない。俺は音速で友人Oと友人Sに中止のお知らせメールを送った。でんでろりん。←効果音


『どうすんの~? 完全に中止?』


 程なく、友人Sから返事が届いた。


『イチゴ狩りはね~。他にネタある?』
『ない』

 キッパリ。おお、あいかわらず考える気もない見事な即答。あの瞬間、君の返事は光速を越えたね! やるな!

「なら・・・“鬼”、行く?」
 メールの向こうで、友人Sがニヤリ、と笑うのが見えた気がした。


鬼。
《「おん(隠)」の音変化で、隠れて見えないものの意とも》
[名]

1 仏教、陰陽道(おんようどう)に基づく想像上の怪物。人間の形をして、頭には角を生やし、口は横に裂けて鋭い牙(きば)をもち、裸で腰にトラの皮のふんどしを締める。性質は荒く、手に金棒を握る。地獄には赤鬼・青鬼が住むという。

2 《(1)のような人の意から》

勇猛な人。「―の弁慶」
冷酷で無慈悲な人。「渡る世間に―はない」「心を―にする」
借金取り。債鬼。
あるひとつの事に精魂を傾ける人。「仕事の―」「土俵の―」

3 鬼ごっこや隠れんぼうで、人を捕まえる役。「―さん、こちら」

4 紋所の名。鬼の形をかたどったもの。

5 目に見えない、超自然の存在。
死人の霊魂。精霊。「異域の―となる」
人にたたりをする化け物。もののけ。
「南殿(なんでん)の―の、なにがしの大臣(おとど)脅かしけるたとひ」〈源・夕顔〉

6 飲食物の毒味役。→鬼食(おにく)い →鬼飲(おにの)み
「鬼一口の毒の酒、是より毒の試みを―とは名付けそめつらん」〈浄・枕言葉〉
〔接頭〕名詞に付く。

1 荒々しく勇猛である意を表す。「―将軍」

2 残酷・無慈悲・非情の意を表す。「―婆(ばば)」「―検事」

3 外見が魁偉(かいい)・異形であるさま、また大形であるさまを表す。「―歯」「―やんま」
(大辞泉より)


 言うまでもなく昔話等に頻繁に出てくる、日本人なら知らぬものとてない伝説上の存在である。その、伝説上の存在の首のミイラが岐阜にあるという。それを知ったのは、ひょんなきっかけからだった。

 昨年11月末に、奈良の柳生へ旅行に行った。剣豪の郷で剣豪達の足跡と事跡を忍ぼうという趣旨だったが、俺の目を奪ったのは“石”だった。石舟斎が斬ったと伝えられる一刀石。天の岩戸から飛んできたという天石立神社のご神体。


 岩はいい。


 そう思った俺は、他にもイカス岩はないかと調査を始めた。そこで見つけたのが岐阜にある戸隠神社の「重ね岩」だった。(http://www.warakankou.com/kankospot-iwa.html

 柳生のものと同じく、天の岩戸の欠片が飛んできたと伝えられる「重ね岩」は、その名の通り二つの岩が上下に重なった大岩である。上部の岩は推定42トンの重さがあるというのだが、絶妙のバランスで乗っかっており、なんと片手でグラグラと動かすことができるのだという。まさしく天下の奇石。うおお! 見てみてえ! 動かしてみてえ!!

 「鬼の首のミイラ」がある岐阜念興寺は、そのすぐそばにあったのを偶然見つけたのである。(http://www.warakankou.com/kankospot-oni.html) ま、人生なんてそんなもんだ。


 それにしても鬼の首のミイラとは!

 素晴らしい! やっぱアレかなあ、水掛けるとしゅわしゅわしゅわーって戻って、ツリ目のツンデレっ娘になんの! まあ、魎呼よりは鷲羽ちゃん派なんですけど――って誰も分からない天地無用ネタはさておき。

 大喜びして去年さっそく出かけようとしたのだが、運の悪いことに滋賀では数年に一度級の大雪が降ったため延期。念興寺のある郡上市もけっこう雪が降るところだということで、今まで行けずじまいだったのである。そろそろ雪も減ってきたし、行ってみないかと提案してみたわけだ。


 そして当日。我々は集結した。


 参加者はいつものメンバーである友人O、友人S。俺。それに加え、今回は友人Sのバイト先の友達のパワフル主婦、Mさんが参加した。

「はじめましてMADさん!」
「はじめましてMさん!」
「きゃー、自画像のクマそっくりですね!」

「ハッハッハ、あの自画像はタイ料理かなんかと引き替えに友人Sに書いてもらって超大好評なイラストではありますがどういう意味だこの野郎? 俺はブラッド・ピット似の好青年で声は次元大介で通ってるからそのつもりでシクヨロ!――ってそれはともかく。今日の内容、知ってます?」
「ええ! Sちゃんから聞いてます!」
「岩と鬼の首、それに洞窟探検ですよ? ホントにそんなのでいいの?」
「ええ! めちゃくちゃ楽しみで楽しみで!! 1月からの約束で家族で友達に会うはずだったんですけど、頼み込んで延期して貰いましたよっ」
「そ、そんなに!?」

 自慢ではないが、我々の旅行は大概どうしようもない。今まで「どこそこに旅行に行くんですよ!」つーてうらやましがられた記憶がほとんど無い。今回の鬼の首にせよ岩にせよ洞窟にせよ、普通の旅行ではどっちかってーとサブイベント。つかニッチというかキワモノというか、そう言うネタである。滝や吊り橋ともども、気まぐれで立ち寄ることはあっても、我々のようにそれを目的として行くような奴はそうおらんのである。それをこんなにも楽しみにしていようとは。

 さすが友人Sの友達。類が友を呼んじゃったんだな。つか、もう彼女は「あっち側」の住人なんだな。

 振り向くとそこには、とっくに「あっち側」の住人である友人Sが、久保竣公のようなツラで笑っていた。俺は、ホウ、とため息を漏らした。


 さて。


 メンバーも揃い、俺たちは友人Oの運転で高速に乗った。

「いやあ、いい天気になりましたな」
「まったくまったく」
「昨日はどうなることかと――って、おや雪」
「マジで!? あ、また晴れた」
「と思ったらまた雪」
「晴れた」
「どやねん!」
「ってうわ! 風キツ!」
「トラックがー! トラックがー!?」


 なんだかクルクル変わる天気と横殴りの風に翻弄されつつ我々がまず向かったのは、美濃市の北部に架かる吊り橋「美濃橋」であった。これは現存する近代吊橋としては最古のものとして知られる吊り橋である。なんやしらんが我々、滝とか吊り橋とかが好きでたまらんのである。これだけでメシ10杯はイケる勢いなのである。嘘である。


「着いたー!」(キキーッ)


 友人Oにしては珍しく、ちょっと迷いながらもたどり着いた美濃橋は、吊り橋とは言え非常に堅固なコンクリ作りの橋であった。

風雲録「鬼狩り士。」前編



「高校の修学バスとか来てますよ」
「こんなん見ておもろいんかなあ」
「揺れそうにないし、風情がないね。ハズレだ!」

 好き勝手なことをほざきながら、俺たちは車を降りた。やはり吊り橋は木製かワイヤー作りに限る。こんなのは吊り橋とゆーよりただの橋だ。

 ガッカリしながら、それでも一応橋を渡ってみる。

「おお、長良川、水キレイだねー」
「シーズンになったら、鵜飼いとか見れるんだろうな」
「見たいねえ」
「だね。お、近くで見るとなかなかいい鉄骨ッぷりじゃないですか」
「赤もいい色だよ」
「風情もいいし、これはいい橋だ!」
「吊り橋はいいねえ!!」


 さ っ き け な し て た の は ど の 口 だ 。


 君子は豹変す。あっさり前言を撤回し、我々は大満足して美濃橋を離れた。

(続く)


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