2009年12月10日

和歌山ミニツアー。後編


 今回向かったMar's Speedさんは、和歌山にある車屋さんである。主に英国車を取り扱っておられるお店なのだが、正式名称をマーズ・スピード・ジャパンと言う。その名のとおり、本拠は英国にあり、ここはその日本支店にあたるそうな。

 とはいえ、社長さんは日本人である。なんでも英国で英国車の流通や改造、部品製造に携わり、日本と英国を行き来する中で、日本での拠点としてこのお店を立ち上げたらしい。趣味性の高いお店だけに、和歌山というと失礼ながらちょっと不便な場所に思えるが、中古車販売店と言うよりも、貿易会社の一拠点、メインの輸入商材は英国からの送り込みと言うことで、場所はどこでも良かったのだと言う。
http://www.mars-speed.co.jp/

 そういう会社であるからして、取り扱う車の品質、アフターケアは万全。マニアな皆様の間では名の知られたお店であるらしく、志野もその評判を聞いて購入を決めたのだろう。

 契約を待つ間ぼへーっと見てまわると、見たことない車がゴロゴロあった。誰も頼んでいないのに、志野が解説をカマしてくれる。

「その車はバンデンプラスプリンセスっつーてなあ、『ミニ・ロールス』と呼ばれた高級車なんだよ! その車が来たら何を差し置いても一番に出迎えに出るようにってのが、高級ホテルやレストランのドアマンの常識だったらしいぞ!」

「そいつはミニのワゴンタイプでなあ! 木枠がついてるんだ! 木枠だぞ木枠! すごいだろ!?」

「ウーズレーのこのグリルが! 鼻がっ!!」


 うん。黙れ。


 放置して2階、3階にあるアンティークや雑貨を見学していると、「良かったら試乗してみませんか?」というお話が。

 ええー? そうですか? まあ、そんな機会めったに無いしね。そこまで言ってくださるならどーしよーかな? ねえ、友人M?

「じゃあMAD君、お先に」(ブロロロロー)


 もう乗ってるー!?Σ(゚д゚lll)ガーン


 そして、十数分後。

(バルルルルーン! キュッ)「いやあ、楽しかったよ!」

「お、おかえり。じゃあ次は俺が…・・・」
「じゃあMさん、これ」
「店長さんありがとうございます。ふーん、コミコミで90万ちょっとか……」
「え? 友人M、それってもしかして……」


 見積書もらってるー!?

「いや、僕実は前にミニ欲しくなって、探してたことあんのよねえ」
「何その初耳の設定ー!? そんなの聞いた事ないですよ!?」
「え? 店長さん、神戸に懇意のお店があるんですか? そこを紹介したら、アフターサービスもバッチリ? おお、それはありがたい! この前再就職してからこっち、ちょうど通勤用の足が欲しかったところなんですよねえ。これなら即金で買える価格だし、買っちゃおうかなあ? はっはっは」
「こ、こいつ!?」

 くそお! 俺は15年前くらいから欲しいって言ってたのに! それがまさか志野に続いてみゅりうすにまで先をこされるだと!? おのれ! おのれええええええ!!!!!

 この日俺は、Mという男の恐ろしさを、再び思い知らされたのであった。


 そして、運転してみたんですけど。


「重ッ!?」

 ミニ! その名と姿に反して、こいつは重量級だった! さすがに旧車とあって、パワーアシストがないのである! それゆえに、ステアリング、ブレーキと、思いっきし力を込めないと動かない、回らない! その特徴は低速での挙動に顕著で、駐車ん時なんて大汗である。スピード出しているときはまだマシなのだが!

 さらに、アクセルとブレーキのペダルが近く、思わず両方踏みそうになったり、ATがとっても大味で、ガツン、ゴツンとギアが変わるのが体感できる。クリープ現象も力いっぱいで、ブレーキから足を離すや、結構な速度で飛び出していく。低速ならクリープだけで十分な巡航速度が稼げてしまうくらいである。そして、そのクリープを抑えるためのブレーキが、トンデモ重い! 力いっぱい踏みしめてないとキッチリブレーキが掛からないので、小時間乗っただけでも、右足が変な痙攣を起こす勢いである。

 もちろんそれ以外にも旧車らしい部分はいっぱいあって、まずエンジン音が大変うるさい。そして、それと直繋ぎだけに、ハンドルがトラックやバスみたいにものすごく振動する。窓はもちろん手動で、さらにエンジンを掛けるキーと、扉をロックする鍵は別物だ。あと、ウィンカーが日本車と違い、左側にあるのも地味に効く。重ステとブレーキの取り扱いに慌てているうちに、つい右側のレバーを操作してしまうのである。そうすると、雨も降っていないのにワイパーが視界を掃除してくれるのである。本当にありがとうございました。


 だけどこの車、すっごく楽しい!


 旧車好きがよく旧車の魅力の一つとして、「車を運転していると言う実感が感じられ、楽しい」ということを挙げるが、なるほど、と納得できる。こいつは楽しい! その不便の一つ一つが、なんとも愛しいのである。うひゃうひゃ言いながら楽しんでました。うんそこ、マゾって言うな。

 しかしこれ、ジジイになってから乗るって言ってたけど、ジジイになってからだとちょっとしんどい気もする。まあでも、いい車だよなあ。買わないけど。お、志野、契約すんだの。

「おう。ついでに、上のアンティークショップで、荷物運び用のビンテージ・トランクも買ってきた!」
「トランクねえ。グローブトロッターなら欲しいけどな。買ったの、そこのクリーム色のやつ?」
「そうそう。やっぱこの色が上品でいい! この色と、グリルが欲しくて探し回ってたからな!」
「上品ねえ。まあ、人間自分にないものに憧れるって言うしな! 俺はやっぱクーパーで、伝統の緑か、赤がいいけどな。で、白のライン入ったやつな! 店頭にも並んでたけど、超カッコいい!」
「ふーん。ポールスミス・モデルて変わり種の色もあるけどな」
「なんじゃそりゃ。やっぱあのレインボー?」
「それもあるけど、ええと、この本に載ってるかな。ほれ」





「青。ポールスミスがこの色っつーて、自分が着てた服を切り取って渡したって逸話の残る色でな」
「ぬふぉおおおお!?」
「しかも、エンジンとトランクルームがまた粋で」





「蛍光グリーンのアクセント。またグリルも凝っててなー、七宝焼きのエンブレムと、蛍光グリーンのイングランドが燦然と」
「ふぎょおおおおおお!!!!」

 欲しい! 超欲しい! メガ好みだ!!!!!

 うおおおおお!!!!


店長「まあ、人気で殆ど出回らず、うちでも出たら即売れますけどね」

 やっぱりー!?


 うう、危なかった。現物あったら、俺も見積もり出してもらっちゃうとこだったよ! あぶねえあぶねえ!

 ああでも、ちょっと欲しかったなあ。いくらくらいで出てるのかな。ちょっと検索してみるかポチッとな。90万後半から160万くらいまでかー。手がでない価格じゃないな。むしろ新車買うより安いし……。って、なにこれ?

◆Paul Smith(ポール・スミス)
【二つ折り財布】ミニクーパー(車)柄



 おおおおおお!!!! これもいい! 見た目は普通の黒財布なのに、中にこういう仕掛けって大好きだ! うひょー!


 遥 か 昔 に 売 り 切 れ て る け ど 。


 まあ、二万後半もするしね! あっても買わないけどね! 多分ね! 買わ……ない……。


…。
………。
…………。


 ヤ フ オ ク っ て 便 利 そ う で す ね 。  


2009年12月08日

和歌山ミニツアー。中編


「それで俺はマイクの野郎に言ってやったのさ。


 ミニを持ちたいって? お 前 の 股 間 に も う 持 っ て る じ ゃ な い か 


――ってな! HAHAHAHAHA!!!!」


 俺は、脳内に響くテリーのアメリカンジョークを聞きつつ、高槻の地を踏んだ。今回のミニ購入ツアーの合流地点である。今回の参加者は4人。志野、俺、友人M、そして後輩のはやし君である。テリーはいない。つか、テリーって誰?

 志野が目指すミニの専門店は和歌山にあるらしい。我々ははやし君の出してくれた車に乗りつつ、『へうげもの』談義に花を咲かせていた。着いた。さすがはやし君! 見事な運転だぜ! 伊達にインドで、謎の暗殺教団の魔手をくぐり抜けたりしてないな!(実話)

 ただ、細かい場所までは地図がなかったので、近所のファミマまで店長さんにお迎えに来てもらい、我々は無事今回の目的地、Mar's Speedさんまでたどり着いた。
http://www.mars-speed.co.jp/

 そこには!

ミニ!



ミニミニ!!



と、猛烈な数のミニが並びまくっていた! Oh! もーりす~!

いかん。眠い。続く!
  


2009年12月07日

和歌山ミニツアー。前編


 その日、処方に忍ばせた“草”の一人より、恐るべき報告が俺の耳に届いた。佐賀の生臭坊主志野が上京してくると言うのである。激震が走った。志野はデブなので、歩くと揺れるのである。

「なにしに来んの?」
「いやちょっと車を買いに。一緒に行かね?」

 詳しく聞くに、和歌山のお店から中古車を買ったのだそうな。で、その車の契約かたがた上京し、久々に旧友と会おうと考えたらしい。頭の中味の2/3が脂肪である志野にしては、珍しく気の利いた考えである。ちなみに、残りの1/3は骨である。

 で、なに買うの? ミニ!? しかも旧型!?


 なんですとぉぉぉぉ!?


 ミニ・クーパー! 天才技術者アレック・イシゴニスによって生み出された、言わずと知れた英国の傑作小型車である! フランスのシトロエン2CV、イタリアのFIAT500、ドイツのフォルクスワーゲンらと並び、「国民車」として長く愛され、その生産・販売は2000年まで、実に40年以上の長きに渡って継続された。

 レースカーとしても使われたほどの走行性能もさることながら、そのキュートな外観は非常に女性に受けが良く、「ミニを見せれば、どんな女も隣に乗りたがる」との伝説を産んだほどである。ただし、旧車らしいそのステキな乗り心地から、「一度乗ったら、二度と乗ってくれない」という伝説がその後には続くのが大変残念なところだ。

 日本でも古くから愛され、今なお熱狂的なファンは数多い。実は俺にとっても憧れの車であり、「60越えたらチョッキと帽子の似合うジジイになって、ミニに乗るんだ!」と大学卒業前から公言しているくらいである。

 その俺の憧れの車を! このつぶれあんまんが!

 まさしく、「紳士の国」である英国への侮辱以外の何ものでもない。このままでは、日英同盟以来の日本と英国の友誼にも、巨大な禍根を残すこととなろう。思わず佐賀に向かってスカッドミサイル発射の命令書にサインをしようとした俺だが、ふとあることに気付いてその手を止めた。


――そう言えば、「変態紳士」って言葉もあったな。


 「なるほど」と、俺は思った。ならばやつも、紳士の一人。ミニを所有する権利があるというわけか。

 認めねばなるまい。俺は、うめいた。あのような下賤の輩が、我が愛しきミニに乗るなぞ剛腹だが、その権利があるなら、認めねばなるまい。ノブレス・オブリージェ。高貴なる者には、相応の義務が伴うのだ。

 俺は選ばれし者の恍惚と不安をひしひしと感じながら、旅立ちの場所へと向かったのであった。続く!