2009年02月20日
【感想】すべての風景の中にあなたがいます。
今日は大学の友人Mと、大阪のサンケイホールブリーゼまで行って、俺の愛してやまない劇団「演劇集団キャラメルボックス」の芝居を見てきましたよ!
今回は「ハーフタイムシアター」と銘打たれたキャラメルの独自企画、一日に短編二つを上演するという趣向であったため、演目は二つ。それも、新旧実力派作家二人の作品を原作にすると言う、非常に意欲的な舞台である。
一つは日本SF界を代表する叙情派作家「梶尾真治」氏の手になる『すべての風景の中にあなたがいます』。
そしてもう一つは、推理小説から青春小説、ヤングアダルト、サスペンスにいたるまで幅広い作品を物し、ゾーリンゲンの刃を思わせる、硬質で鋭く、されどどことなく艶やかな作風で絶大な支持を受ける「恩田陸」氏の『光の帝国』である。
梶尾真治氏と恩田陸氏!
なんとすばらしい組み合わせであろうか! まず梶尾真治氏。ここ最近キャラメルボックスは氏の連作『クロノス・ジョウンターの伝説』を元にした芝居を、立て続けに上演してくれていたのだが、どれも良い作品だった。中でもその内の一作『ミス・ダンデライオン』は「これだ! 俺がキャラメルに求めてるのはこれなんだよぅ!!!」と、久方ぶりに俺を随喜の涙でおぼれさせてくれた傑作であった。その梶尾真治氏の作品がまた!!!
一方、恩田陸氏。こちらは新潮社ファンタジーノベルシリーズとして刊行されたデビュー作『六番目の小夜子』を読んで以来、ずっと、「作家として」追いかけていた方であった。しかも、『光の帝国』はとても好きな短編集なのである。さらに、都合のいいことに、同作品を読んだのはもう5年は前。ということは、若年性アルツと名高いマイ脳みそが、ちょうど話を忘れている頃なのだ! いやっほぅ! バカ万歳! ダメな脳みそでアリガトー!!
しかし、今回は大阪公演が4日しかない! 勇躍俺は予約をしたね! 久しぶりに先行予約なんぞ申し込んで! そして見事、席は取れたのだ! あとは見るだけですようははははー!!!!
「あー、奇怪な雄叫びを上げてるとこ悪いが、MAD君」
「なんスか係長?」
「19日、退職するA君の送別会なんでよろしくな」
「ハァッ!?」
送別会は8時半から。キャラメルの芝居は『すべての風景の中にあなたがいます』が6時半開演。『光の帝国』が、8時半開演。
ムリだ、見れない。orz
しかし、送別会をブッチするなど、人としてあるまじき所行。結婚式と葬式なら、葬式を優先しろという言葉もあるではないか! 祝祭はまた出会えるかもしれないが、別れはハイ、それま~で~よ♪なのである。さよならは別れの言葉じゃなくて 再び会うまでの遠い約束という歌もあるが、だいたい遠すぎてその約束は果たされないものなのだ。
――あ、でも、いつもハーフタイムシアター1時間上演だし、先の分だけは見れんじゃね!? ンで、終わってすぐ帰れば間に合うんじゃね!? そうだ! そうに決まった! 俺がそう決めたぁぁぁ!!!!
「――と、送別会に遅刻したのはそういうワケなんですよ。刑事さん。もとい係長」
「死刑」
以下、ネタバレを挟みつつ感想。
『すべての風景の中にあなたがいます』
■原作
梶尾真治『未来(あした)のおもいで』
(光文社文庫刊)
■脚本・演出
成井豊+真柴あずき
■CAST
岡田達也
温井摩耶
岡田さつき
細見大輔
左東広之
多田直人
久保田晶子
稲野杏那
■ストーリー
4月、イラストレーターの滝水浩一は、熊本と宮崎の県境にある、白鳥山に登った。山頂近くで、突然の雨。上から駆け下りてきた女性とともに、洞窟に飛び込む。女性は、滝水がいれたコーヒーを飲むと、また雨の中へと去っていった。一冊の手帳を残して。手帳の最後のページには「藤枝沙穂流」と書いてあった。数日後、滝水は手帳を届けるため、沙穂流の家を訪ねる。ところが、その家に住んでいたのは、「藤枝詩波流」。よく似た名前だが、沙穂流とは全くの別人だった。はたして、沙穂流はどこに?
以上、公式HPより。
クロノス・ジョウンター・シリーズと同じく、「別の時代に生き、それを超えようとする恋人達」のお話。ジャック・フィニィの佳編「愛の手紙」のように、二人が出会った洞窟に置かれた「鉄箱」に納めた手紙を通して交流を図る様など、胸が熱くなりました。岡田さんは本当に、こういう「真摯な夢見人」を演じさせるとうまいなあ。言葉がド直球ストレートに、胸を貫いてくれる。
いいお話でした。
ただなあ! なんか! なんかこう、弾けきってくれないんですよ! 胸の感動メーターが、振り切れてくれないんですよ!
ハーフタイムシアターという時間制限のせいか、描写がですね、「足りない」感じがするんですよ!
例えば、沙穂流が若い頃に亡くなったというご両親の話。滝水はそれを止めようとするんですが、失敗する。でも、なんで失敗したか、理由語られないんですよね。描写もないんですよね。
例えばそこで、滝水が止めようとしたのを振り切って出かけちゃうとか、言うこと聞いて別の場所にいたんだけど、別の事故に巻き込まれて、とかいう描写があったら、この作品の最大の難関である「歴史は変えられない。滝水も死に、二人は二度と出会えない」という“歴史”の非情さや困難、そしてそれを打ち破ったときのカタルシスも増したと思うんですが。
最後の遭難シーンもなあ。滝水と沙穂流のシーンをカットバックしていくとか、滝水の「沙穂流に逢いたい!!!」という思いを入れてくれるとかして「滝水ー! 死ぬな滝水ー!!」という思いを抱かせてくれたらすげえ盛り上がったと思うんですが。原作が、ああいう感じなのかな? 文章だと確かに、すごくキレイな描写になりそうな展開だったし。
あー、やっぱり2時間のフルで見たいよなあ!!! あんなにいい作品なのに! 役者さんだって、あんなにすてきな芝居をしてくれてるのに! もったいねええええええ!!!!
くそう、きっと『光の帝国』もいい芝居だったんだろうなあ! 見たかったぜコンチクショー! 誰かー! 俺の歴史も変えてー!!!!
Posted by MAD at 04:28│Comments(0)
│観劇録。
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