2008年04月15日

いつか、どこかで、あなたに会った。


 「演劇集団キャラメルボックス」の芝居「きみがいた時間 ぼくのいく時間」のネタバレあり。


 昨日は神戸まで、俺の愛してやまない劇団「演劇集団キャラメルボックス」の芝居「きみがいた時間 ぼくのいく時間」を見に行ってきましたよ!


 原作は日本SF界の巨匠“カジシン”こと梶尾真治氏。日本のレイ・ブラッドベリとも言うべき、詩情に満ちた作風で知られる氏の中編連作『クロノス・ジョウンターの伝説』の、十数年振りの新作が原作である。一昨年上演され、俺を涙の海へと沈めた傑作「ミス・ダンデライオン」と同じく、「クロノス」シリーズとあっては、なにをさしおいても見ずにはおれん。


 ただ、今回は作者自らの「上川さんをイメージして書いた。できれば彼にやってほしいなあ」というお言葉により、最近めっきりTVに軸足を移しちゃって舞台はお見限りな放蕩息子、幻の看板男優上川隆也さんが久々に舞台に立つことに。嬉しいんだけど、おかげでチケットはいつにも増して争奪戦。神戸公演はすでにチケット完売だってんで、当日券買うべく4時から並びましたよ。なんとか8人目くらいに滑り込め、一番右端の補助席とは言え、一階の、なかなかの好位置をゲットできたのは僥倖と言えましょう。

 今回はキャラメル初の途中休憩も入る長丁場。恒例の「開演前挨拶」も「ケータイチェック」もない「普通の劇団」みたいな始まり方で、舞台が幕を開けました。


 ストーリィはとっても簡単。


住島重工の研究員・秋沢里志は、海外派遣留学を終えて、5年ぶりにニューヨークから帰国する。空港で待っていたのは、5年前に別れたはずの恋人、梨田紘未(ひろみ)だった。自分の帰りを待ち続けていた紘未に、里志は激しく心を動かされる。一方、里志は住島重工の子会社P・フレックで、新しい機械の開発に携わることになる。それは、物質を39年前の過去に送り出す機械、クロノス・スパイラルだった。最初の実験の日、里志の元に電話がかかってくる。紘未がトラックに撥ねられ、病院に運ばれた……。
(公式HPより)


 以下、ネタバレを挟みつつ、感想。


 もう、相変わらずベタベタです。恥ずかしいくらいまっすぐストレートです。アホかっちゅーねん。はっはっは。


 泣 い た け ど 。


 予想通り、事故で死んだ彼女を救うべく、過去へと向かう秋沢。だが、彼女を救うには事故が起こるまでの39年もの時間を、過去の世界で過ごさねばならない。仕事も、身寄りとてない過去の世界で、自分はその時まで生き延びることが出来るのか。そしてなにより、自分は彼女への想いを、39年もの長きに渡って、抱き続けることができるのか。

 揺れる秋沢の心。そして、いないはずの過去に彼が現れたことにより、歪んでいく過去。ブラジルでの蝶の羽ばたきが、テキサスでトルネードを引き起こすこともある。カオス理論のバタフライ効果のように、いなかったはずの彼の存在が、救わねばならないはずの最愛の人の誕生や、二人の出会いまでも消してしまいそうになる。

 悲劇を食い止めるべく、奔走する秋沢。だが、目の前で成長していく“最愛の人”と、彼は永劫に結ばれることはない。声をかけることも許されない。

 その悲哀と焦燥、そしてやがて老いていく秋沢の姿を、上川さんは見事に演じきっておられました。やっぱりこの方、うまいわ。

 キャラメル創設以来初という途中休憩で、一度集中が途切れたのは惜しかったけど、女性には嬉しい試みだったんじゃないでしょうか。キャラメル女性ファン多いし、女性トイレは回転が悪いし。

 以前に上演されたクロノス・シリーズの主人公達が話にからんできたり、特別なことは何一つやってないのに、やることなすことがイチイチ面白い西川さんをはじめ、実力派揃いの主演陣。チケット売りのお姉さんの愛想まで、あいかわらずお手本のように安心できる劇団とお芝居でした。


 惜しむらくは脚本――というか、この場合は「原作」というべきなのかな?


 最初に張られた伏線が回収され、やはり、前半に起きた不思議なことは、みな過去に戻った秋沢が行ったことだと分かった。過去に飛ぶ前の自分が、紘未に告白するシーンを目撃するなど、前半で見た「幸せな二人」を切なく見守るその姿に涙しつつ、気になるのはただ一つ。タイムパラドックスの問題だ。

 よく「親殺し」の命題で知られるタイムパラドックス。過去に戻った者が、自分が生まれる前の親を殺してしまったらどうなるか? 生まれる前に親が死ねば、自分は生まれない。自分が生まれなければ、過去に遡って親が殺されることはない。親が殺されなければ自分は生まれ、生まれた自分は時を遡って親を殺す・・・。無限に堂々巡りになると言う、アレである。


 壊れかけた過去がなんとか修復され、歴史は紘未が救われる未来へと向かい始める。ここで紘未が救われれば、秋沢は過去へ戻ることはない。だが、彼が過去に戻らなければ、紘未が救われることはないのだ。

 これにどうやって整合性を与えるのか。紘未は救われるが、そのことは秋沢には秘密にされ、彼は誤解したまま過去に戻るのか。それとも39年をかけた彼の努力は、徒労に終わるのか。いや、それならどちらも鬱エンドになる。キャラメルがそんなオチを用意するわけはない。きっと想像を絶するウルトラCが! だけどこれ原作モノだしなあ・・・。

 やきもきしつつ、話は怒濤のエンディングへ! 事故の当日、言い含められた通り、家を出ない秋沢と紘未。事故の時間は刻一刻と近づく。その時、電話が鳴った。

 電話の向こうにいたのは、彼の思いを知り、過去に戻った秋沢をずっと支えてきた女性。彼女は言う。過去に戻った秋沢が、去年亡くなったこと。ちゃんと家にいるか、確認のため電話をしたこと。そして、彼からの最期の言葉を伝えたい。


「これからは、君が彼女を護れ」


 その瞬間、ふっと、電話が切れた。いや、切れたと言うより、最初からどこにも繋がっていなかったかのようだった。背後で紘未が大声を上げる。過去に戻った秋沢からもらったカメオが消えたというのだ。時計を見て、そうかと秋沢は呟いた。

「事故の時間! そうか、過去が変わったんだ! だから、電話の向こうの彼女の人生も代わり、そこにいなくなった。カメオも消えたんだ!」
「――ああ!」

 そして、秋沢は過去に戻ってまで彼女を護ったもう一人の自分を思い、彼女を抱きしめて言うのだった。

「紘未。これからは、俺が君を護る!!」


(完)


 ・・・。
 ・・・・・・。
 ・・・・・・・・・。


 え?


 ちょ!? パラドックスは!? しかも改変が起きたなら起きたで、なんで君達記憶持ったままなの!? ちょ!?(笑)


 投 げ っ ぱ な し に し や が っ た 。


 原作読んでないから、これが原作通りなのか、キャラメルオリジナルかは分からんけど、最後にズッコケた。(笑)

 面白かっただけに、最後のこのオチは残念だったなあ。前のクロノス三部作にはそういう「え?」って部分はなかったんだけど。


 あと、今まで舞台化された3編が「望んだ場所と時間に行けるが、ごく短い時間だけ。その後、遥か遠い未来にはじき飛ばされる」という制約があったのに対し、今回は「行ける時間は39年前だけ。場所は選べない。帰れもしない」と、大きく前提条件が違う。そのため、前回までは「限られた時間内で、どうやって目的を果たすか」が眼目となり、焦燥感と、激しいドラマ性があったのに対し、今回はどちらかというと地味な展開だった。盛り上がる部分はあったものの、全体的に平板なイメージを持ってしまいましたね。

 普通の劇団なら平均点以上なんだろうけど、ついキャラメルだと点が辛くなってしまうなあ。特に、同じクロノス・シリーズの「ミス・ダンデライオン」が、自分の中で、ひさびさに100点に近い傑作だったから。

 あー、「ミス・ダンデライオン」見返したくなってきたなあ。ええい、そんなワケで友人Oは、俺に映画部屋を貸すといいと思いますよ!

 過去になんて戻れないし、戻りたくもないが、DVDなんていう文明の利器で、過去をリアルに追体験することはできるのだ。便利な世の中になったもんだねえ。


 ・・・と、そんな憎まれ口を叩きつつ。

 本当は、失えば、戻りたくなるほど大切な「なにか」を手に入れた秋沢がうらやましい。そんな、優しい物語でした。彼女と見ると最高でしょうね! 男二人だったけどね!! クソ。


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この記事へのコメント
先日は先に失礼して申し訳ありませんでした。
だって、居心地良くて抜けられなくなりそうだったので^^

キャラメルボックス、懐かしい!
と言っても高校時代、演劇好きの友達が憧れて話を聞いてただけで
実際見に行ったことはないんですが…
ちょうど先日知人のつてで、ポツドール@本多劇場に行ったばかり。
血中演劇濃度が上がっていますw
キャラメルボックスの公演もぜひ見てみたいなぁ。
舞台ってつい、美術や音響に目が行ってしまう病気があるので、
気にせずに話に入り込めるほど面白い舞台を見てみたいです。

それではまたお話しましょう!
Posted by ii at 2008年04月16日 01:45
●ii様
こんばんはー! この前はちょっとだけですが、お話し出来て嬉しかったです!!

今日もおいでになればよろしかったのに。内緒ですが、アリンコ歌入りver.の触りが・・・。

>キャラメルボックス、懐かしい!

なんですとー!? 

くそう、関西在住でしたら、確実におつれいたしますものを! せめて「ミス・ダンデライオン」か「広くてすてきな宇宙じゃないか」のDVDだけでも見せてえ・・・。orz

キャラメルは分かりやすくて愛に満ちてて王道なので、「コンビニ」好きな方なら、きっとお気に召すと思うのですよ!(拳を握りながら)

ただ、劇団が気にいるかどうかは、最初に「抜群」を見せられるかどうかだと思うので、逆に80点くらいの作品は見せたくないなあ、と思ったりも。(笑)
Posted by MADMAD at 2008年04月16日 03:24
しまった!と思いこちらにこっそりコメント(笑)。
「アリンコ歌入り」聴きたかった…

残念なことに、関西在住ではないのですよ;;
DVDレンタルできるなら借りて見てみたい!
Posted by ii at 2008年04月21日 02:20
●ii様
OK、分かった。明日23時ね。DVDは明後日ね。待ってやがれコンチクショウ。(笑)
Posted by MADMAD at 2008年04月21日 03:10
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