2008年04月15日
いつか、どこかで、あなたに会った。
「演劇集団キャラメルボックス」の芝居「きみがいた時間 ぼくのいく時間」のネタバレあり。
昨日は神戸まで、俺の愛してやまない劇団「演劇集団キャラメルボックス」の芝居「きみがいた時間 ぼくのいく時間」を見に行ってきましたよ!
原作は日本SF界の巨匠“カジシン”こと梶尾真治氏。日本のレイ・ブラッドベリとも言うべき、詩情に満ちた作風で知られる氏の中編連作『クロノス・ジョウンターの伝説』の、十数年振りの新作が原作である。一昨年上演され、俺を涙の海へと沈めた傑作「ミス・ダンデライオン」と同じく、「クロノス」シリーズとあっては、なにをさしおいても見ずにはおれん。
ただ、今回は作者自らの「上川さんをイメージして書いた。できれば彼にやってほしいなあ」というお言葉により、最近めっきりTVに軸足を移しちゃって舞台はお見限りな放蕩息子、幻の看板男優上川隆也さんが久々に舞台に立つことに。嬉しいんだけど、おかげでチケットはいつにも増して争奪戦。神戸公演はすでにチケット完売だってんで、当日券買うべく4時から並びましたよ。なんとか8人目くらいに滑り込め、一番右端の補助席とは言え、一階の、なかなかの好位置をゲットできたのは僥倖と言えましょう。
今回はキャラメル初の途中休憩も入る長丁場。恒例の「開演前挨拶」も「ケータイチェック」もない「普通の劇団」みたいな始まり方で、舞台が幕を開けました。
ストーリィはとっても簡単。
住島重工の研究員・秋沢里志は、海外派遣留学を終えて、5年ぶりにニューヨークから帰国する。空港で待っていたのは、5年前に別れたはずの恋人、梨田紘未(ひろみ)だった。自分の帰りを待ち続けていた紘未に、里志は激しく心を動かされる。一方、里志は住島重工の子会社P・フレックで、新しい機械の開発に携わることになる。それは、物質を39年前の過去に送り出す機械、クロノス・スパイラルだった。最初の実験の日、里志の元に電話がかかってくる。紘未がトラックに撥ねられ、病院に運ばれた……。
(公式HPより)
以下、ネタバレを挟みつつ、感想。
もう、相変わらずベタベタです。恥ずかしいくらいまっすぐストレートです。アホかっちゅーねん。はっはっは。
泣 い た け ど 。
予想通り、事故で死んだ彼女を救うべく、過去へと向かう秋沢。だが、彼女を救うには事故が起こるまでの39年もの時間を、過去の世界で過ごさねばならない。仕事も、身寄りとてない過去の世界で、自分はその時まで生き延びることが出来るのか。そしてなにより、自分は彼女への想いを、39年もの長きに渡って、抱き続けることができるのか。
揺れる秋沢の心。そして、いないはずの過去に彼が現れたことにより、歪んでいく過去。ブラジルでの蝶の羽ばたきが、テキサスでトルネードを引き起こすこともある。カオス理論のバタフライ効果のように、いなかったはずの彼の存在が、救わねばならないはずの最愛の人の誕生や、二人の出会いまでも消してしまいそうになる。
悲劇を食い止めるべく、奔走する秋沢。だが、目の前で成長していく“最愛の人”と、彼は永劫に結ばれることはない。声をかけることも許されない。
その悲哀と焦燥、そしてやがて老いていく秋沢の姿を、上川さんは見事に演じきっておられました。やっぱりこの方、うまいわ。
キャラメル創設以来初という途中休憩で、一度集中が途切れたのは惜しかったけど、女性には嬉しい試みだったんじゃないでしょうか。キャラメル女性ファン多いし、女性トイレは回転が悪いし。
以前に上演されたクロノス・シリーズの主人公達が話にからんできたり、特別なことは何一つやってないのに、やることなすことがイチイチ面白い西川さんをはじめ、実力派揃いの主演陣。チケット売りのお姉さんの愛想まで、あいかわらずお手本のように安心できる劇団とお芝居でした。
惜しむらくは脚本――というか、この場合は「原作」というべきなのかな?
最初に張られた伏線が回収され、やはり、前半に起きた不思議なことは、みな過去に戻った秋沢が行ったことだと分かった。過去に飛ぶ前の自分が、紘未に告白するシーンを目撃するなど、前半で見た「幸せな二人」を切なく見守るその姿に涙しつつ、気になるのはただ一つ。タイムパラドックスの問題だ。
よく「親殺し」の命題で知られるタイムパラドックス。過去に戻った者が、自分が生まれる前の親を殺してしまったらどうなるか? 生まれる前に親が死ねば、自分は生まれない。自分が生まれなければ、過去に遡って親が殺されることはない。親が殺されなければ自分は生まれ、生まれた自分は時を遡って親を殺す・・・。無限に堂々巡りになると言う、アレである。
壊れかけた過去がなんとか修復され、歴史は紘未が救われる未来へと向かい始める。ここで紘未が救われれば、秋沢は過去へ戻ることはない。だが、彼が過去に戻らなければ、紘未が救われることはないのだ。
これにどうやって整合性を与えるのか。紘未は救われるが、そのことは秋沢には秘密にされ、彼は誤解したまま過去に戻るのか。それとも39年をかけた彼の努力は、徒労に終わるのか。いや、それならどちらも鬱エンドになる。キャラメルがそんなオチを用意するわけはない。きっと想像を絶するウルトラCが! だけどこれ原作モノだしなあ・・・。
やきもきしつつ、話は怒濤のエンディングへ! 事故の当日、言い含められた通り、家を出ない秋沢と紘未。事故の時間は刻一刻と近づく。その時、電話が鳴った。
電話の向こうにいたのは、彼の思いを知り、過去に戻った秋沢をずっと支えてきた女性。彼女は言う。過去に戻った秋沢が、去年亡くなったこと。ちゃんと家にいるか、確認のため電話をしたこと。そして、彼からの最期の言葉を伝えたい。
「これからは、君が彼女を護れ」
その瞬間、ふっと、電話が切れた。いや、切れたと言うより、最初からどこにも繋がっていなかったかのようだった。背後で紘未が大声を上げる。過去に戻った秋沢からもらったカメオが消えたというのだ。時計を見て、そうかと秋沢は呟いた。
「事故の時間! そうか、過去が変わったんだ! だから、電話の向こうの彼女の人生も代わり、そこにいなくなった。カメオも消えたんだ!」
「――ああ!」
そして、秋沢は過去に戻ってまで彼女を護ったもう一人の自分を思い、彼女を抱きしめて言うのだった。
「紘未。これからは、俺が君を護る!!」
(完)
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
え?
ちょ!? パラドックスは!? しかも改変が起きたなら起きたで、なんで君達記憶持ったままなの!? ちょ!?(笑)
投 げ っ ぱ な し に し や が っ た 。
原作読んでないから、これが原作通りなのか、キャラメルオリジナルかは分からんけど、最後にズッコケた。(笑)
面白かっただけに、最後のこのオチは残念だったなあ。前のクロノス三部作にはそういう「え?」って部分はなかったんだけど。
あと、今まで舞台化された3編が「望んだ場所と時間に行けるが、ごく短い時間だけ。その後、遥か遠い未来にはじき飛ばされる」という制約があったのに対し、今回は「行ける時間は39年前だけ。場所は選べない。帰れもしない」と、大きく前提条件が違う。そのため、前回までは「限られた時間内で、どうやって目的を果たすか」が眼目となり、焦燥感と、激しいドラマ性があったのに対し、今回はどちらかというと地味な展開だった。盛り上がる部分はあったものの、全体的に平板なイメージを持ってしまいましたね。
普通の劇団なら平均点以上なんだろうけど、ついキャラメルだと点が辛くなってしまうなあ。特に、同じクロノス・シリーズの「ミス・ダンデライオン」が、自分の中で、ひさびさに100点に近い傑作だったから。
あー、「ミス・ダンデライオン」見返したくなってきたなあ。ええい、そんなワケで友人Oは、俺に映画部屋を貸すといいと思いますよ!
過去になんて戻れないし、戻りたくもないが、DVDなんていう文明の利器で、過去をリアルに追体験することはできるのだ。便利な世の中になったもんだねえ。
・・・と、そんな憎まれ口を叩きつつ。
本当は、失えば、戻りたくなるほど大切な「なにか」を手に入れた秋沢がうらやましい。そんな、優しい物語でした。彼女と見ると最高でしょうね! 男二人だったけどね!! クソ。
2007年11月18日
トリツカレツクチテ。
神戸まで、演劇集団キャラメルボックスの芝居「トリツカレ男」を見に行ってきた。
原作は新潮社から出ている同名の書籍。ストーリーは以下である。
「ジュゼッペのあだ名は「トリツカレ男」。何かに夢中になると、寝ても覚めてもそればかり。オペラ、三段跳び、サングラス集め、潮干狩り、刺繍、ハツカネズミetc.そんな彼が、寒い国からやってきた風船売りに恋をした。無口な少女の名は「ペチカ」。悲しみに凍りついた彼女の心を、ジュゼッペは、もてる技のすべてを使ってあたためようとするのだが…。まぶしくピュアなラブストーリー。」
内容(「BOOK」データベースより)
大人のための童話のような物語である。余談だが、この1週間ほど前に見に行ったピースピットの主催末満健一氏も、この作品を演劇化したかったそうで、先を越されたとパンフで悔しがっておられた。なるほど、氏の作品に似た雰囲気を持つ、柔らかで暖かな、春の宵のような物語である。
以下、ネタバレを含みつつ、感想。 続きを読む
2007年11月17日
一刻を千金づつにしめあげて 六万両の春の曙。(P)
姫 子 ち ゃ ん は 俺 の 嫁 。
と、お約束の宣言をカマしたところで。(本気だけど)
先週の土曜日(だっけ?)、大阪のHEP HALLまでピースピットの芝居、「呪いの姫子ちゃん」を見に行ってきましたよ!
ピースピットはかつて佐々木蔵之助や腹筋善之助といった錚々たるメンバーを擁し、関西演劇界に超新星のごとき光芒を放って消えた伝説の劇団「惑星ピスタチオ」に在籍し、今は自ら作・演出をこなす舞台役者末満健一氏の主催する、演劇ユニットである。
ストーリーは以下の通り。
「みんな大嫌い。
これは昔々あるところに……からはじまる少し切ない恋のお話。
現実と御伽噺がまだ地続きだった頃、現実と御伽噺のちょうど真ん中に小さな国がありました。
その国は呪いの姫子ちゃんという名のひとりの魔女によってそれはそれは苦しめられていました。姫子ちゃんはなぜか国中の人を憎み、人々に呪いをかけては不幸に陥れていたからです。国中の人が姫子ちゃんのことを嫌っていました。
(中略)
そんなある日、姫子ちゃんの住むイバラの城に謎めいた青年が迷い込んできます。それは、この国の跡継ぎで生まれながらにして目の見えぬ、盲目の王子ニコでした。呪いの姫子ちゃんと盲目の王子の出会い。その出会いによって、姫子ちゃんに隠された呪いの秘密が少しずつ明らかにされていくのですが…。」
(チラシより)
以下、ネタバレを挟みつつ、感想。
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2007年10月15日
朧ボロボロ。
地元の友人と4人で、ゲキ×シネ第五弾劇団☆新感線『朧の森に棲む鬼』を観に行ってきました。
ゲキ×シネとは、演劇のDVD制作/販売などを手がけるイーオシバイによる、過去に公演された演劇の、映画館での上映会である。もともとが演劇のDVD制作を行っている団体の作った「分かってる」映像を、しかも映画館の音響設備と大画面で観られるとあって、こりゃもう芝居好きには堪えられないイベントであるのだウヒヒ。
今回の演目は『朧の森に棲む鬼』。劇団☆新感線と松竹がタッグを組み、主演に歌舞伎俳優市川染五郎を迎えて、2007年新橋演舞場正月興行として開催されたというバリバリの新作である。
ストーリーは以下。
『それはいつともしれぬ昔。そして、どこともしれぬ島国。
累々と重なる死人の山から、一人の男が現れる。
名をライ(市川染五郎)。
どんな嘘でも瞬時に仕立て上げるその「口先」と、弟分・キンタ(阿部サダヲ)の腕っぷしとを武器に、漂うように世の中を渡ってきた男。
野心に充ちた、その獣のような瞳は、自らの力でこの世にのし上がることだけを、ひたすら夢見ている。
そこは朧の森。
いにしえの神々が棲む、神秘の森──。
「かなえてあげようじゃないか。それにふさわしい男の望みなら」
突然ライの目の前に、この森の魔物たち──オボロが現れる。
ライの望み……それはこの国の王になること。
見返りにオボロたちが求めたものは……ライの命。
「おもしれえ」──ライは、その取引に乗った。
何処からか取り出した一本の剣を手渡しながら、オボロが言う。
「その舌先が動くように、その剣は動く」
「今からここに現れる男を殺しなさい」
「それが、あんたが王になる最初の一歩」
そうして、血塗られたライの戦いが始まった。』
(公式HPのストーリー紹介より)
有り体に言うと強烈な野心を持った男が、口先三寸と魔剣とを武器にのし上がり、破滅していく姿を描いたピカレスク・ロマンである。
いやあ、面白かった。
以下、ネタバレを挟みつつ、感想。観る予定の人は、見ないで下さい。
この日、睡眠時間2時間だったんで、つまんなかったら寝る。確実に寝る。面白くても中だるみなんかしやがったら即寝ちまうぜお願いしますよコンチクショウ、という状況で行ったのだが、いやいやいや! 眠くなるヒマなんざありゃしねえ。一分一秒たりとも目が離せませんでしたよ! さすがは新感線。脱帽。
まずは、やはり主演の市川染五郎がいい! 失礼ながら声自体はそんなにキレイじゃないし、滑舌も良くはないのに、「届く」んだよなあ、声が。
セリフは膨大。3時間の長丁場を、常にしゃべり続けと言っても過言じゃない。しかも「口先三寸」が武器のキャラとあって、立て板に水のテンポいい口上が求められるのに、ほぼトチらない。間違えない。基本の基本だけど、とちった瞬間、見てる方は冷めてしまうだけにここは重要なとこだ。
活劇シーンも多く、それがまた激しく、強いのに、声が乱れたりかすれたりもしない。またこの殺陣がねえ。激しく、早いんだ。刀も、ちゃんと当ててたよな? あんだけ迫力のある殺陣は久々に観ました。
所作の美しさ、緩急自在で目を惹く動きは言うに及ばず。演技力もな。のし上げるにつれ、どんどん貫禄を付けていく様や漂う狂気、細かいところでは、「魔剣が勝手に動いてオタオタ」みたいなシーンも、ちゃんと違和感なく感じられてスゲエな、と。
そんなこんな全てをひっくるめて、目を惹きつけてやまない魅力がありました。これが「花」か。
また、その脇を固める俳優陣が実力陣揃いなワケですよ! 準主役のキンタを演ずる阿部サダヲは、笑わせて泣かせて歌って暴れて。まさしく三面六臂の大活躍。2部の再登場時にはシビれたなあ。盲目になっての登場が、ちゃんと“盲目っぽく”見える。粟根まことと同じく、謎の動きと過剰なリアクションで沸かせる系の俳優と認識してたんだけど、とんでもない。みくびっておりました。あの演技力あってこその“笑い”なんだな。
一方、同じ方向性のハズの粟根まことの見せ場の少ない事よ・・・。キャラメルに客演来た時には、あんなに動きまくって笑わせまくってたのにー!!! もっと俺に粟根まことを見せろろろロロロシアンルーレットー!!
古田新太は今更言うに及ばずですね。なんでしょう、あの全身からしたたる「男汁」は。格好良すぎる。また、下っ腹に響く魅惑のバリトン・ボイスと、ゲキ×シネだから見えるあの凄絶な視線と目力な! ありゃあ、3人は殺してるね!(おいおい) しかし、本当に太ったなあ。おかげで伊藤えん魔とキャラがかぶって困ります。いや、別に困りゃあしねえが。
イチノオオキミ役の田山涼成も良かったなあ。最後のシーンにはホロリときました。その名演に響く、シキブ役の高田聖子の狂気な。ホント、新感線の役者にハズレ無しだなあ。あと、シュテン役の真木よう子は美人だと思います。凛とした将軍萌え。
そして、それらの豪華役者陣を縦横に使いこなしたイノウエヒデノリの演出と中島かずきの脚本の見事さよ!
舞台の上に本物の滝と雨を出現させる奇想天外さ! 殺陣! 客席を巻き込む演出! そして、酒呑童子伝説を下敷きにしながらそれを換骨奪胎し、完全に別の作品として昇華させる手腕!!
『髑髏城の七人』観た時も思ったけど、人間としての深みが違う。スケールが違う。観てて「ここちゃうやろ!?」とか「ここ、こうした方がオモロイやん!」とか、話の矛盾に「?」ってなることがほとんど無かったもんなあ。シュテンの「自分の体を使った」血人形の下りくらいか? あれはいらんかった気がする・・・。
いや、面白かった。
しかし、なんですな。前の『髑髏城の七人』をゲキ×シネで観た時も思ったけどさ。
ホンモノの舞台で観てエエエエエエeeeeeeeeee!!!!!!!!!1111
やっぱりさあ、音や匂い、まわりの人のざわめきなんかも合わせて“芝居”なワケじゃないですか! どんなに良くできた「映像」でも、そりゃあやはり現実のよすが。残り香みたいなもんですよ!
まあ、現実の芝居だと、2階席とかで、こんな表情分かるほど良く見えないんだけどね。芝居観に行って、気に入った芝居をゲキ×シネでもう一度見返すってのが一番幸せかもなあ。ピスタチオのDVD BOX発売ん時のイベントは幸せだった・・・。
とゆーわけで。
ホンモノの舞台で最前列で観てエエエエエエeeeeeeeeee!!!!!!!!!1111 友人S、チケット取り頑張ってー!!←結局人任せかよ
2006年03月26日
Your Song"D"mix。(キャラメルのネタバレあり)
昨日の話。(キャラメルボックスの芝居『あした あなた あいたい』と『ミス・ダンデライオン』のネタバレ有り)
友人Mと、大阪城公園側の劇場「シアターBRAVA!」で行われた、演劇集団キャラメルボックスの芝居を見に行ってきました。昨年末に行われた芝居『クロノス』の続編に当たる作品二本。1時間程度の短いお話を、2本続けて公演するキャラメル独自の「ハーフタイム・シアター」と呼ばれる興行であります。作品名は『あしたあなたあいたい』と、『ミス・ダンデライオン』。
さすが人気劇団だけあって、チケットは即SOLD OUT。当日券が15枚だけ出るってんで、朝もはよから並びに行きましたよ。開演は2時。チケット発売はその30分前からということで、余裕を見まくって11時頃行ったらもう8人並んでた。慌てて後ろに並びましたがな! キャンセルもあって、最後にはチケットは30枚近くになり、1時くらいに来ても十分買えたんだけど、それはまあ結果論ってことで。
「ちゃーっす」
「おひさー」
「いや、さすがキャラメル。はよから人並んでんねえ。・・・あ、これ昼飯に買ってきたサンドウィッチ。オゴリでいいよ」
「おお! さんきゅー!!(モグモグ) しかし、いい天気だね」
「まったく。ひなたぼっこしてる感じで気持ちいいねえ」
「暖かくなってきたし、どっか行こうぜ。前からゆーとる縄文セッション&古代鍋もやってねえし! 今年はスキューバとボディボードの川版、鳥取砂丘でサンドボードなんざ狙ってるんですがどーよ?」
「ああ、いいねえ。僕も島根にあるっていう「トンカツパフェ」の店行きたいねんけど」
「トンカツパフェ? 清まるじゃなくて?」
「そんな名前やったかなあ。よー知らんけどツレが行ってけっこう旨かったって。今度登録商標にもなるらしくってさぁ」
あとで調べたら、やっぱり愛媛は松山にある「清まる」のことっぽい。松山と松江間違ってない? あそこは俺も昔から気になってたし、行くならスキップして付き合いますが。松山城も見たがってたし、まあ、ちょうどいいっちゃちょうどいいわな。
「あー、ねむ。兄貴が昨日、俺の部屋の横で延々『三国無双2』やっててなー。寝れんっつーねん!」
「あ、それあれちゃうのん! マガジンに載ってるうさんくさい戦国バトルものみたいなキャラの格ゲー!」
「惜しい! そっちは戦国BASARA! あれめっちゃイカスで! 本多忠勝サイコー! 家康がちっこい少年でな! 「行けー! 忠勝!」って手のリモコン向かって叫んだら忠勝の目が光ってビーム発射」
「め、メカ!?」
「かっちょいー」
「そのうち三国無双と合併してKOFみたいなの出そうやな。『ブルー・ウルフ&ホワイト・・・牝鹿って英語でなんて言うんだ?」
「おお! 『蒙古無双』! やりてー!!」
「『蒙古無双』て、普通の人“四駿”とか“四狗”とか知らんから!」
「いやいや、だから『蒼き狼と白き牝鹿』路線ですよ。いいよなあ。リチャード獅子心王とサラディン、フィリップ尊厳王は固いとして、日本は頼朝と義経か?」
「ヒロインキャラで静御前と北条政子あたりですか。つか、フィリップ・オーギュストなんざ普通の人知らんってば」
「マジで!? メジャーやと思ったのになあ」
「中国は?」
「宋の時代やし、文弱ばっかやな。・・・文天詳とか?」
「うわ、知られてねーッ!」
「なにィッ!? 愛国の士と言えば文天詳か山中鹿之助ですよ! モンゴルはチンギスの息子たちですかね」
「トゥルイ、美少年キャラになるんやろうなあ」
「オゴタイは知性溢れる優男キャラで。チャガタイはやんちゃくれの粗暴キャラやろうなあ」
「ジュチはシニカルな影背負ったキャラか。おお、キャラ立ってんな」
「フリードリッヒ・バルバロッサも入れよう!」
「赤鬚王!マサカリ担いだパワーキャラか。ド定番やのう! 水に弱いぞ!!」
「うおお! マジでやりたくなった! CAPCOMか光栄、作ってくれー!!!」
歴 史 に 興 味 な い 人 間 総 置 い て け ぼ り 。
友人Mは同じ東洋史学専攻なだけに、マニアックな歴史ネタが通じてしまって非常に困る。歯止めが利かんのだ。そんな話を続けていると、いつの間にか時間は経って、気づくとチケット販売が開始されていた。
「どーするよ?」
「とりあえず、2階席のその、続きのやつ。それでいんじゃね?」
二階席中央当たり。うまいこと続きになってた席を選び、3500円を払って俺たちは劇場内へと足を向けた。前も言ったけど、1時間のハーフタイム・シアターでS席4000円A席3500円はつらいですよキャラメルさん。二本で8000円。社会人たる我々はまあいいとして、学生さん達のことも考えて、せめて3000円くらいにならんもんでしょか?
そんなことをブツブツ呟きながら、劇場にはいる。
しかしいつも思うけど、キャラメルの芝居に来る人って年齢層は広いけどタイプ似てるよなあ。黒髪率が異常に高くて、みんな地味めな格好して。で、どいつもこいつも人が良さそうな人ばっかなんだ。リリパット・アーミー初めて行ったときは、普通のカップルがいっぱいいてビックリしたよなあ。ピスタチオはオタクっぽい奴ばっかだったけどな! 含む俺。
そうこうしてるうちに、芝居が始まった。
今回の芝居は、冬にあった公演、『クロノス』の続編。リリカルで、時に毒にも満ちた短編の名手と知られ、日本SF界を牽引した重鎮“カジシン”こと梶尾真治氏の連作短編集『クロノス・ジョウンターの伝説』所収の、残る2作品を原作とした公演である。
一作目は「あした あなた あいたい」。原作でのタイトルは「布川輝良の軌跡」。
「布川輝良は友人と言える友人もなく、これといった趣味もない、マジメだけが取り柄の男。2007年12月。母を亡くし、天涯孤独となった彼は、時間遡航機クロノス・ジョウンターの実験に参加する。ただ一つ興味のあった建築家の、今はもう取り壊された最後の建築物『朝日楼旅館』をその目で見るために。
――そしてそこで、彼は彼女に出会った」
なんてことないお話です。遡ったその先で、出会った女性との間に生まれる恋。彼女の婚約者や母親、母親の営む喫茶店、取り壊されようとしている朝日楼旅館、そして時が来れば30年先の未来にはじき飛ばされ、彼女と離ればなれにならざるを得ない布川輝良の運命。それら軸に話は進みます。大きなヒネリもありません。どんでん返しもありません。二人の思い、二人を取り巻く人たちの思い。それが絡み合い、時にもつれながらも、やがてキレイな結末向かって進み始める。
あ ー 、 エ エ 話 や っ た ー 。
涙ぐんじまったい。
ちょっと2人の心の交流が少なかった気もするけど、それでもいいお話でした。も少し二人が話すシーンとか、見たかったけどね。2時間ものにして、クリスマス公演とかでやらないかな?
さあ、テンションが上がって参りました。やはりキャラメルはいい! 最高だ!! カーテンコールの挨拶見るのもそこそこに、俺たちはまた当日券の列へと並んだ。ドヤドヤ。
「次、どうする?」
「一作目、良かったやろ? 二階席やとやっぱ浸りきれんし、バラけても一階で見ない?」
「俺もそう、思ってた」
俺たちはニヤリと笑い合うと、一階席を購入し、別れた。終わったら出口のあたりでまた会おう。
劇場へと再入場し、席へと座る。やがて照明が落とされ、劇が始まった。
本日2作品目になるのは「ミス・ダンデライオン」。原作では「鈴谷樹里の軌跡」というタイトルになっている作品だ。
「横浜大学付属病院で働く医師・鈴谷樹里(すずたにじゅり)は、11歳の頃、小児性結核で入院していた。その時、同じく入院していた作家志望の青年・青木比呂志(あおきひろし)と出会い、「ヒー兄ちゃん」と呼んで慕うようになる。
ヒー兄ちゃんは、幼い樹里に楽しいお話をたくさん聞かせてくれていた。しかし、ヒー兄ちゃんはチャナ症候群という難病のため、亡くなってしまう。
19年後、樹里は、チャナ症候群に劇的な効果をもたらす新薬を手に入れる。
ヒー兄ちゃんを救うため、樹里はクロノス・ジョウンターに乗り込み、19年前の過去へと飛ぶ。」(TBSの紹介HPより)
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
滂 沱 。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーッッッ!!!!!!!!
来た! 来た! 来まくりやがった!! コレだ! これが俺がキャラメルに求め、演劇に求めてきたものだ!! うあー!! たまんねえッ! ああ、ガマンできねえッ!!
そうさ。キャラメルの芝居見て、毎回泣いてるさ。でも、それは所詮「涙ぐんでる」レベル。「熱いものがこみ上げてる」レベル。いつ振りだろう? 頬を涙が伝ったのは。真っ暗で良かったと、こんな顔周りの人に見せられねえぜ!と安堵したのは。
人も死なない、不幸にならない。完全無欠のハッピーエンド。なのに、涙が出るんだぜ? 嬉しくって、幸せすぎて涙が出るんだぜ? そんなの、ありえない。キャラメル以外じゃあり得ない! ああ、もう! もう!! 大好きだッ! キャラメル大好きだーーーーーーッ!!
ぜえぜえぜえ。いや、ちょっと取り乱してしまいました。失礼。
いやあ、初っぱなから涙腺ゆるみまくり。俺の涙腺の蛇口ゆるんでんなあ、と自分でも思ってたら、後半に入って蛇口壊れやんの。涙ずざざざざー。「ウェッヒグ!」なんて死にかけのカエルみたいな嗚咽がでやんの。抑えてんのにさ。周りの人ごめんなさい。
カーテンコール。俺は、暗転した瞬間に顔を拭うと、本当に心の底から手を叩きまくった。叩いて叩いて叩きまくったが、本当は、それでもったく全然足らなかった。スタンディング・オベーションしたくてたまらなかったくらいだ。朝、出かけるのダルいなあ、なんてほざいてた自分をぶん殴りたい気分だ。ハーフタイムなのに4000円なんて高すぎですよ、なんて言ってた自分を正座させて説教してやりたいくらいだ。2億円だって高くねえ。
いや、いいもん見せて頂きました。
パンフにも書いてあったけど、今回は「クロノス」は原作つきなのに「昔のキャラメルの芝居みたいだった」と言われたそうだ。俺も同感だ。
キャラメルの処女作にして代表作、「広くて大きな宇宙じゃないか」を見て演劇に目覚めた俺である。実際に劇場に足を運ぶようになったのは大学を卒業してからだったが、それでも気づけばもう、10年近くキャラメルの芝居を見てきた計算になる。「ワンパターン」「ありがち」「ご都合主義」といった批判も受けるキャラメルの話だが、それでも、やはり新作には他の作品とは違う新機軸が盛り込まれている。それは新鮮さを演出するには入れざるを得ないスパイスだが、やはりそんなものを入れてなかった初期の作品のストレートな味わいは、力強くて格別だ。
今回のお話は、そんな初期の頃の味わいを、「みそ汁とご飯」みたいなひねりもなんもなしの、ド直球ストレート!みたいな味わいを、思いっきり楽しませてくれる作品だった。
ああ、だから芝居を見るのは、キャラメルを見に来るのは止められない。
超絶に満足して、俺たちは梅田の方へと向かった。こみ上げるこの思い、語らずにはおらりょうか! お腹も空いたしな!
梅田の街を軽くさすらうこと30分。前から食いたかったジンギスカン屋を見つけ、そこで食うことに決定。いやあ、初めて食うよジンギスカン。『蒙古無双』ですよジンギスカン。その話題はとっくに終わってますかジンギスカン。
モリモリモリ。
ンま~い! うわー、不思議な味がする! なんか、玉子つけたスキヤキの肉みたいな味! 全然分かりませんかそうですか。いやでも美味しいよコレコレ。
モリモリモリ。ぷふー。で、これからどうする? 飲み直す? そうねえ、あの北海道居酒屋は? 満杯? 待ち30分。待てるか! どこにする? カラオケでもいいよ? なに? M先輩に聞いてみろ? そろそろ帰ってるはず?
Trrrr・・・ガチャ。
「あ、どもM先輩! カラオケ行きませんかぐひゃひゃひゃひゃ!」
「あ!? おまえら今大阪ちゃうんかい! こっちまで来んにゃったら行ったるわい!」
「おお!? マジですか! なら行ったらー! 30分で三ノ宮着くから首洗って待ってやがれー!!」
キャラメルパワー満載の俺に、今出来ないことなどナニもない! パワーの使い道をだいぶ間違ってる気がするが!
そんな感じでカラオケ行って、も一人先輩呼び出して騒いで帰りました。帰りあやうく姫路行きの新快速乗りそうになったりしながらも、なんとか帰宅。1時過ぎでした。今日の会社眠かったー。
いやあ、やっぱキャラメルはサイコーだぜ! 女医さんもいいもんかもしれんな! オーナー、この前「紹介してくれる」って言ってた女医さん、鈴村樹里みたいな子だったら紹介して!
「誰ですそれは?」
話せば長くなりますが。
「どれくらい?」
そうですねえ。ざっと、50年ほどの愛の物語でしてね・・・。