2009年12月07日

和歌山ミニツアー。前編


 その日、処方に忍ばせた“草”の一人より、恐るべき報告が俺の耳に届いた。佐賀の生臭坊主志野が上京してくると言うのである。激震が走った。志野はデブなので、歩くと揺れるのである。

「なにしに来んの?」
「いやちょっと車を買いに。一緒に行かね?」

 詳しく聞くに、和歌山のお店から中古車を買ったのだそうな。で、その車の契約かたがた上京し、久々に旧友と会おうと考えたらしい。頭の中味の2/3が脂肪である志野にしては、珍しく気の利いた考えである。ちなみに、残りの1/3は骨である。

 で、なに買うの? ミニ!? しかも旧型!?


 なんですとぉぉぉぉ!?


 ミニ・クーパー! 天才技術者アレック・イシゴニスによって生み出された、言わずと知れた英国の傑作小型車である! フランスのシトロエン2CV、イタリアのFIAT500、ドイツのフォルクスワーゲンらと並び、「国民車」として長く愛され、その生産・販売は2000年まで、実に40年以上の長きに渡って継続された。

 レースカーとしても使われたほどの走行性能もさることながら、そのキュートな外観は非常に女性に受けが良く、「ミニを見せれば、どんな女も隣に乗りたがる」との伝説を産んだほどである。ただし、旧車らしいそのステキな乗り心地から、「一度乗ったら、二度と乗ってくれない」という伝説がその後には続くのが大変残念なところだ。

 日本でも古くから愛され、今なお熱狂的なファンは数多い。実は俺にとっても憧れの車であり、「60越えたらチョッキと帽子の似合うジジイになって、ミニに乗るんだ!」と大学卒業前から公言しているくらいである。

 その俺の憧れの車を! このつぶれあんまんが!

 まさしく、「紳士の国」である英国への侮辱以外の何ものでもない。このままでは、日英同盟以来の日本と英国の友誼にも、巨大な禍根を残すこととなろう。思わず佐賀に向かってスカッドミサイル発射の命令書にサインをしようとした俺だが、ふとあることに気付いてその手を止めた。


――そう言えば、「変態紳士」って言葉もあったな。


 「なるほど」と、俺は思った。ならばやつも、紳士の一人。ミニを所有する権利があるというわけか。

 認めねばなるまい。俺は、うめいた。あのような下賤の輩が、我が愛しきミニに乗るなぞ剛腹だが、その権利があるなら、認めねばなるまい。ノブレス・オブリージェ。高貴なる者には、相応の義務が伴うのだ。

 俺は選ばれし者の恍惚と不安をひしひしと感じながら、旅立ちの場所へと向かったのであった。続く!


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