2009年06月05日

リターン・オブ・東北。たぶん4話くらい。


 去年の東北旅行記、続き。2日目。たぶん4話くらい。


 翌日。レンタカーに乗って我々が向かったのは、銘酒「まんさくの花」で有名な東北の名酒蔵日の丸醸造様であった。
http://www.hinomaru-sake.com/

 うちの先輩は飲んべぞろいである。中でも、日本酒好きが多い。「せっかく東北に行くなら、是非酒蔵見学を」という要望が出たのは、むしろ必然であった。

 だが、これがなかなかの難題だった。調べてみて分かったのだが、繁忙期ではないこの季節、酒蔵は土日がお休みなのである。

 観光客向けの、資料館を兼ねた蔵ならあった。これにするか? しかし、それで「蔵元見学」と言えるのか?

 悩みつつ調査を続ける俺様。そのときだった。酒造組合のHPで、その名を見つけたのは。


「まんさくの花」 日の丸醸造。


 その名は聞いたことがあった。アル添酒全盛の時代、いち早くそこからの脱皮を試み、質のよい酒の醸造に乗り出し、爾来酒好きから高い評価を得ている蔵元の一つである。


 こういう蔵元を見学できるなら。


 思わずクリックしたHPに、「千客万来」という、酒蔵見学受付の項目があった。普段は受け付けていないが、予約をすれば可能。その来客者の記録を読んでみる。――と。

 !!!! 土日に蔵元見学してる写真がある! しかも、すごく暖かくて、いい感じだ! 俺は即電話をとった!


(Trrrr......ガチャ)「すいません、酒蔵見学をさせていただきたいんですが!」
「いいですよ。いつでしょう?」
「日曜なんですが!」
「あー、日曜は一応お休みなんですよ。どこからいらっしゃるんですか?」
「関西です!」
「か、関西!? え? 何人様くらい?」
「7人です!」
「な、7人!? あの酒販店の方か何かですか!?」
「いえ。 一 般 人 で す 。」
「……。ちょっとお待ちください。(ええ、そうです。はい。日曜に。ごにょごにょ)」

 そして、しばらく受話器の向こうで言葉が交わされた後、その受付の女の人はいった。

「分かりました。どうぞお待ちしております」


 日 の 丸 醸 造 さ ん 最 高 。


 わざわざ休みの日に来て案内してくださるってよぅ! しかも、普段は使ってない旧蔵をわざわざ開けて案内してくださるってよう!

 だが、この程度、日の丸醸造様の素晴らしさにとって、まだまだ序の口にすぎなかったのだと、我々は後で思い知るのである。


 そして、当日朝。


「あああああ、すびばせぇぇぇん・・・。たどりつけないんでええええすぅぅぅぅ」


 俺様は半泣きになっていらっしゃった。

 カーナビがあるからいいや!とばかりに、地図を印刷せずにきたのである。したら、電話番号入れて出てきた先は、新工場だったのである。そりゃそうだ。誰が普段使ってない旧蔵の電話番号なんぞ連絡先に載せる。

 電話で道を聞きながら、あっちいったりこっちいったりと、気分はカツレツキッカに案内されるアムロである。違いはアムロには帰れる場所があったが、俺はこれ以上不出来を重ねると、同行している先輩方に帰る場所どころか、命まで奪われそうなことだけだ。


「あ、目印見えた! あそこだ、あの角曲がれぇぇぇいいいい!!!」
「いやっほおおうううう!!!!」

リターン・オブ・東北。たぶん4話くらい。

 なんとかたどり着いた日の丸醸造様旧酒蔵。さて車はどこに止めるんだろうかと見回していると、おやおや? さっき曲がった角にたたずんでらした、年輩の方がこっちに向かって歩いていらっしゃいますよ?

「MAD様ですね。いらっしゃいませ。車はそこに止めてください」

 くくくく蔵の方でしたカー!? て、あれ? じゃあ、ひょっとして、我々が来るのずっと待っていてくださったんでしょうか!? あの角で、20分以上!? えええええ!? すみません! 生まれてきてすみません!!!!

「あはは。よろしいですよ。分かりにくいところですみません。ようこそいらっしゃいました」

 一同平伏しつつ蔵にはいり。そして。


 ご 案 内 は ご 丁 寧 を 極 め た 。


リターン・オブ・東北。たぶん4話くらい。


「こちらが精米をするところですね。米の種類はこんなのがあって、この機械でこれこれこう」
一同「ほほー」

「で、ここで蒸します。蒸した米はこの蒸籠に並べてうんぬんかんぬん」
一同「うひょー!」


リターン・オブ・東北。たぶん4話くらい。


「で、あちらが仕込み場ですね。できたらこのタンクに入れます」
一同「のっぴょろぴょー」

リターン・オブ・東北。たぶん4話くらい。

 ご案内は1時間をゆうに超えた。

 いやあ、めちゃめちゃ興味深い&おもしろい! 昔ながらの仕込みの行程を、本物を見ながら、リアルなエピソードまで聞いて! 笑ったり感心したり、すげえためになりました!

 しかし、メモを取ったりしていなかったため、一年たつと聞いたことをぜんぜん覚えてない俺。最悪である。


「良かったら、こちらもどうぞ」

 最後に、そう言われてご案内していただいたのは、屋敷に寄り添って建つ蔵であった。

 江戸時代に建てられて放置されていたものを近年整備し、落語会や音楽会を開いたり、蔵祭りのさいに公開したりして、近年好評を得ているのだという。国の登録有形文化財。普段は締め切っているこの蔵を、わざわざ我々のために開けてくださるというのである。なんだかもう、申し訳ないを通り越して土下座したくなってきた。


リターン・オブ・東北。たぶん4話くらい。


「うおおおおおお!!!!!!」


 開いた光景を見て、我々は歓声を上げた。かっこいい! しかもベンガラで、すごく大正ロマンな感じがたまりません! つか、あまりに素敵で、写真取り忘れた! いっぱい写真載せてるとこ見つけたので、この辺見せて頂くといいと思う!
http://harropage.blog39.fc2.com/blog-entry-666.html

「壁に柱が埋め込んであるでしょう? あれ、実はすごく贅沢なんです。一本の青森ヒバから取った一枚板を、人が通り抜けられないほどの間隔で埋め込んである。でもそれは外からは見えない」
「ほほー」
「そういうのが粋だったみたいですね。今じゃあとうてい作れない、豪勢で手の掛かった蔵だそうです」
「うはあ、江戸川乱歩とかで蔵に押し込められて、とか、座敷牢とかあるけど、これなら十分住めるねえ」
「 む し ろ 住 み た い で す 」


 そして、観光を終えたら試飲会なのである。


「どうぞ、良かったら飲んでみてください」(ドン!)
「うひょー! 吟醸大吟醸! うめええええ!!!!」
「リンゴのお酒、めちゃめちゃ口当たりよくておいしいよ!? なんだこれ!?」
「あはぅん、たまんねええええ!!!!」


 10種類以上いろいろ試飲させてもらい、満足した先輩方はなんかいろいろ家にお酒を送ってました。

「ええと、一応このあと、もう一軒観光蔵をルートに入れておりますが?」
「この感動を消したくないから行かない」
「ですよねー」

 最後にお土産までいただき、しかも無料。


 あ な た が 神 か 。


 東北の人は、人がいい。そんな言葉では言い尽くせないほどのご案内を受け、我々は感激とともにその地を去った。

 日の丸醸造最高。まんさくの花びゅりほー。

 大満足をかみしめつつ、我々の旅は続くのであった。続く。


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