2008年10月20日
京都迷宮地下鉄事件。
「全ての不可能を消去していき、最後に残ったものが、どれほど奇妙なことであっても、それが真実なのだ」
――シャーロック・ホームズ
その日、私は京都の街中をさすらっていた。あるイベントに足を運ぶことになっていたのだが、それにはまだ時間があったのだ。BALビル、阪急、藤井大丸、SHIPSと、散策は2時間にも及んだろうか。京都にある大学に通って以来、十数年。このあたりには無数に足を運んだものだったが、就職して以来、その回数は極度に減っていた。街は様々に変化を遂げており、歩くたびに新たな発見があった。東西南北縦横無尽。歩きすぎて足が痛くなってきたころ、携帯電話がプルルと鳴った。メールの着信だった。
『今どこ? もうすぐ京都に着く』
同じイベントに足を運ぶ、友人のOだった。私はすぐに返信を返した。
『三条。どうやって行こう?』
『地下鉄東西線に乗るのはどうかな。4時半に、三条駅で待つ』
現在時刻、4時20分。液晶の端に浮かぶその文字を確認すると、私はパチリ、と音を立てて携帯を閉じ、地下鉄の駅へと足を向けた。靴ずれの出来つつある足には少し厳しかったが、ガマンできないほどの距離ではなかった。
歩いた時間は、5分ほどだったろうか。階段を地下へと下り、料金表で行き先と値段を確かめた。太秦天神川駅。280円。色んな店のポイントカードでパンパンになった財布から、お金を取り出す。硬貨でキッカリ280円あったので、なんだかうれしくなったことを覚えている。
切符を自動改札機へと差し込む。いつも俺をドキリとさせる一瞬の間を置いて、自動改札機は切符を吐き出した。片手でそれをつかみ、まっすぐに歩き出す。27分。電車はまもなくだ。地下鉄の駅へ下りようとして、ふと視界の片隅にジュースバーを見つけた。生の果実をその場でジューサーにかけ、紙コップで飲ませるタイプのジュースバーだ。
ゴクリと、喉が鳴った。そう言えば、喉が渇いている。
30分。電車はもう着く。私はしばし逡巡したが、欲望を抑えきれず、財布から100円硬貨を3枚取り出した。「期間限定 苺ミルク」と書かれたジュースをもとめ、急いで飲み干した。細かな種のつぶつぶが、ほの甘い苺の果汁の中でおどり、渇いたのどをざらりと撫でた。
携帯がまた、プルルとなった。
『着いた。今どこ? ホームには下りた?』
『改札は抜けた。今からホームに下りる』
紙コップをゴミ箱に放り込むと、私はうっそりと歩き始めた。階段を下り、ホームを見渡す。友人の姿はなかった。コキリ、とクビを鳴らすと、私は再び歩き始めた。ホームのはじからはじまで、ほんの100mほど。だがそこに、やはり友人の姿はなかった。
私は首をかしげた。ひょっとして、行き違いになったのだろうか。
エスカレーターに乗って、上階へ上がる。周りを見回すが、やはり友人の姿はない。私は、携帯をとりだした。どこ? どこにいる?
『ホームにいるよ。エスカレーターの前』
『エスカレーター? どっちの?』
『え? エスカレーター、一つしかないでしょう?』
・・・なにを言っているんだ? 私の胸に疑念が浮かんだのは、その時がはじめだった。なにを言っているんだ彼は。
こ の ホ ー ム に エ ス カ レ ー タ ー は 二 つ あ る 。
『なにを言ってるんだ? エスカ、2つあるよ』
『いや、一つだよ』
『今、どこにいるんだ?』
『それはこっちのセリフだよ。ひょっとして、三条京阪の駅にいない?』
『バカな。地下鉄だよ。切符もある。それを通して下りてきたんだ。間違いっこない』
『じゃあ』
『じゃあ』
『『お前はどこにいるんだ!?』』
■読者への挑戦状■
ここで、私は読者に挑戦する。推理に必要な手がかりは、これまでに全て明かされている。真相は非常に明快かつ現実的なものであり、そこに超現実的なトリック等は使用されていない。諸君等の知性に期待する。
■解答篇■
ややあって、私は再び階下へと降りた。エレベーターの前を確認する。しかし、やはり友人の姿はない。二つのエレベーター。姿を見せない友人。
私はしばし沈思黙考した後、ふと視線をあげた。眼前のボードには、恐るべき記述が書かれていた。
「四条駅」
Q.E.D.(証明終了)
※この文章は現実をもとに再構成されたものであり、登場人物と現実の個人・事件・団体とは一切関係がありません。特に昨日の俺と友人Oとの合流のさいに起きた事件とは一切関係がありません。ないって言ってんだろ! いいじゃねえか、その後ちゃんと合流できたんだから! 三条と四条って、ほとんど一緒だろ!? そんな細かいことにこだわってたらいい大人になれねえぞてやんでえバーローてめえちくしょいゴメンなさい!
Posted by MAD at 00:16│Comments(0)
│日記。
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