「 本 日 は 法 要 中 に つ き 鬼 の 首 拝 観 は で き ま せ ん 」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「うがーッ!!」
「ああ! 友人Sが壊れた!?」
「止めろ止めろー!!」
とゆーわけで。我々はいきなり行き詰まっていた。まあ、お寺だもんね! しかも、超ビッグな京都のお寺とかじゃないもんね! そんなこともあるよね!
「住職さん、帰ってこないかな?」
「法事昼で終わるとかでね!」
「この辺、お墓にお坊さんの像が立ってたり、神社も小さいのがたくさんあって信仰心厚そうだったからなあ。ムリだろうなあ」
いつも立ち寄る寺や神社が、ある程度大きいとこばっかりだったんで、そんなこと考えもしてなかった。まさしく想定の範囲外ですよ! くそう鬼め! 俺たちを恐れて逃げやがったな! ああ、俺の鬼娘が! ツリ目のツンデレっ娘が!!
次回来るときには、ちゃんと問い合わせしてから来よう。ショックで虚脱状態の友人Sを車に乗せつつ、俺たちはそう誓った。
「じゃあ、戻りますか」
「しゃあないねえ」
ブルルンルン。
走り出し、しばらくたって気が付いた。
「あ、滝、滝!!」
「え? 行くの?」
「行かいでか! せめて滝でも行かねば負けた気分満載じゃないですか!」
「んー、まあいいか。どっちにする? 確か二つあったよね?」
「そうね。鬼の首が見れず、ショックな友人Sに選ばしてやろう!」
「え!? あ!? じゃ、じゃあ御手洗の滝で! こっちのがかっこよさそうやし!」
「ラジャー!!」
俺たちは速攻気を取り直し、御手洗の滝探索へと気持ちを切り替えた。決断は遅いが、気持ちの切り替えは早いのが我々の取り柄である。記憶力が微妙で、あまり古いこと覚えてられんのだ。さあ行くぜGo! Go!! 山越え川越えオーバーザレインボウ! 鳴かせてみせようヤンバルクイナ!! って、なんかスゴイ道になってきましたよ友人Oさん! 林道やで!? 降りて歩いた方がいいんじゃ!?
「大丈夫。行ける行ける」
君のその自信はどこから湧いてくるのか。まあ、いいや。さっきの寺のことはもう克服したんだね。落ち込んでいた君はもういないんだね。少年は今、大人になったんだー!!
ガリゴリ。
「ぐわー! 枝でクルマ擦ったー!!」
も っ と 落 ち 込 ん だ 。
大人はまた少年になった。まさに思い起こす少年のハート!(違います)
友人Oは思ったより車を愛している人だったらしい。車なんて傷が付いてナンボですよ! 俺の前の愛車のソアラ号なんざ、横がえぐれて錆びてたぞ? 左ッ側のドアなんて、レバー折られて中から開かなかったしな。おかげで目的地に着くたびに俺がドア開けに走って、「リムジン仕様」なんて言われてたくらいだ。なに? それは行きすぎだ? おっしゃる通りだ。
「これ以上は道荒れまくりだから車はダメよん」(意訳)
そんな看板を見つけたこともあって、俺たちはようやく車を降りた。ここから先は徒歩である。俺たちはいつものことだからいいとして、友人Mが一瞬「マジかい!?」って表情をした気がして、ちょっと気がとがめたが、気が付かないふりして行くことにした。(おい)
さあ、ドカドカ歩くよー。
颯爽と俺たちは歩き出した。うーん、まわり杉だらけ。花粉症の時期にだけは来たくねえなあ。地面も一面の杉の落ち葉で、真っ赤に染まってやがるよ。とりあえずアスファルトで舗装された道を登っていこう。つかこの滝、全然情報無かったんだけど、どこまで行けば見れるんかなあ。
そんなことを思いつつ、歩くこと十分。我々は緩やかにカーブした道を曲がり。そして。
「なんじゃこりゃー!!!!!11」
叫んだ。
一 面 倒 木 だ ら け 。
・・・ここはどこのニューオーリンズですか?
おそらく大雪で倒れまくったのだろう。それも一本や二本ではない。十本や二十本どころでもない。まさしくゴロゴロ転がっている。
「ちょっと俺、先見てくる!」
そう言って友人Oが駆けだした。そして、ややあって息を切らして降りてくる。
「アカン。この先ずっとこんな感じ!」
おそらく、シーズンになるとこの木を撤去して、道を整備するのだろう。そして、俺たちが来たのはシーズン前だった、と。俺も色んな滝を見に行ってきたが、こんな道は初めてだ。
中止するか? 一瞬、皆の顔を、そんな思いがよぎった。男二人はいいとしても、やはり女性陣が。特に友人Mは旅行ビギナー。さすがにこれはツラいんではなかろーか? そんな時、おねいさんが言った。
「ううん、もうちょっと行ってみようよ」
その言葉に、友人Mも頷く。おお! マジですか! 俺としてはこんなの逆に「おいしい」シチュエーション! むしろ行く気満々ですよ! よく言った! お前ら漢だ!!(女です)
二人の気が変わらんうちにと、俺は駆けだした。こんな時、「気を遣うなよ。女性にゃきついだろう? 戻ろう」なんて口が裂けても言わない俺様である。自己中もここまでいくといっそ清々しい。俺はそんな自分を誇りに思いながら、山深い森の澄み通った景色の中を駆け抜けていった。
「ぐへー。どへー。脇腹がッ! 脇腹がッ!!」
・・・すぐに走れなくなったけど。
転がりまくる倒木を乗り越えつつ、そこから20分も登ったあたりだろうか? 右手に5、6台止められるような駐車場が設けられた広場に、俺たちはたどりついた。シーズンともなれば、ここまで車で来れるのだろう。そして、ここからが遊歩道の始まりというわけだ。やっと目的地のとば口に立っただけとはいえ、目的地までの距離が具体的に分かったのはありがたい。ここからは川沿いの砂利道。足下に気を付けながら着いてきやがれ皆の衆ー!! ドララーッ!!
と軽やかに歩き出したものの、これがなかなか大変だった。舗装されたアスファルトの道でもあれだけ大変だったのである。ましてや砂利道と来ては。
「うお、川危ねー! 飛び越えんのかよ!」
「根っこが! 根っこが!」
「なにこのデケえ倒木! くぐんの!? くぐんの!?」
気分はまさに川口広探検隊。脳に響くのは嘉門達夫のあの歌である。川口広が~♪
そうやって歩くこと30分。俺たちはようやく御手洗の滝へたどり着いた。
「いつもこんなとこ見に来てるんですか!?」
「いや、今日のはさすがに特別」
初旅行でこんなの体験させられた友人M。つくづく業の深い人である。まあ、だからと言って謝る気は全然無いがな! 自己中もここまで行くと以下略!
そして。巨大な木の根っこをくぐり抜けた俺たちは、ようやく目指す御手洗の滝へとたどり着いた。
「すげー!!」
思わず歓声を上げる。これはいい滝だ! デカイし、かなり近くまで寄ることも出来る! 夏なら、滝壺で泳ぐことすら可能だろう。ああ、暖かくなってからまた来たいなあ。
とりあえず写真だ写真。ケータイを握りしめ、ベストポジションを捜す俺。ううん、全体がなかなか入らないなあ。あ、向こう岸、いい感じだ。わたろっと。
「滑るよ! 危ないって」
「やめときなって!」
だいじょぶだいじょぶ。根拠はないけどダイジョブ! とりゃ!
向こう岸めがけて軽やかに俺は飛び。そして。
「うぎゃあああああーーーーーーーーーッ!!!!!!」
俺は叫び声を上げた!
(続く)