美濃橋は確かに良かった。満足だった。しかし、奴はこの旅程の中では一番の小物よ! 満足などという言葉は、この次鋒「蛇穴」を味わってから言ってもらおう! ゴゴゴゴゴ!!!!
とゆーわけで。
俺たちは「蛇穴」の前にいた。鬼の首のミイラや重ね岩は郡上市和良町というところにあるのだが、トイレに行きがてら道の駅に寄ったら、案内板を見つけたのである。
「『蛇穴』だって! 昔こっから出てきた蛇が空に昇ったんだって! うわー! うわー!」
「・・・行きたいの?」
行きたくないはずがあろうか! エサを貰うときのチョビのような笑顔で、スゴイ勢いで縦に首を振ってやったら行くことになった。行 か な き ゃ お 前 を 獲 っ て 食 う 。
まあ、団子はもぐもぐ食ってましたが。「長寿ダンゴ」ってのが売ってたんで食ってみたんですが旨かった。なんでも和良町は先日、日本で一番長寿の町として認定されたので、それにちなんだネーミングなのだという。長寿日本一て、沖縄じゃないのか! こんな身近にあったとは。ビックリですよ。
風は肌を刺すほど寒かったが、我々はガマンして歩き始めた。
「水がきれいだねえ」
「まったく。あ、ワサビ園!」
「人は通らないねえ」
「車もほとんどこないな」
「そだね。蛇穴じゃあな、と。こっちかな」
「そっちかね? しかし『じゃあな』ってスゴイ名前だよな。ジャアナ地方ってありそう」
「おお! インドとかにぜってえあるよそれ! つか、やっぱアレですよ! ジャアナ一族とかがいて護ってんだぜ!」
「穴を?」
「そうそう! アスラ神軍みたいな鎧着てよう!」
「ゾイドの敵役にもいそうだなあ」
「で、蛇穴を護りつつ支配しててですな。水飲み放題」
「うわー、メリットすくねエー!!」
しみじみ、地元の方が通りすがらなくて良かったと思う。こんな無礼な会話聞いたら、俺なら軽トラで突っ込む。無罪。
「これが蛇穴ですか!」
「うお! めっちゃカッコええ!」
あまり期待はしてなかったのに、これが意外に、蛇穴はいい感じであった。
「深い穴だなあ」
「お、コップがあるよコップ! 水のもう水。グビグビ」
「音がいいよなあ。とてもいい感じに響いて」
「お、隣の穴もいいよ! 『蟲師』とかに出てきそう!!」
あとで友人Oに教えてもらったのだが、ここの水、最近は汚れてきたとかで、地元の人は飲まないのだそうだ。それはまあいいとして、問題はその先。実はこの蛇穴、デカイ鍾乳洞の出口で、その奥には地底湖があるのだという! うおー! 見てえー!!!
危ないから、ちゃんとした装備でなきゃダメらしいけど。うお、いつか見に行こう。絶対だ!
満足して引き返す。本当はこのまま遊歩道を歩き、昔の城跡等も見物したかったのだが、あまりの寒さにあきらめたのである。あー、寒。
「あ。なんか倒木が道に!」
「デカイ木だなあ!]
「あっちからでも戻れるかな?」
「合流あっちだし、戻れるんじゃないかな?」
「じゃあ、俺あっちから行くよ! みんな大変だし、来た道戻ってよ。向こうで会おう!」
と、気を利かして一人で向かったら。
み ん な つ い て き や が ん の 。
馬鹿ばっかりですか。あ! ひょっとしてみんな俺と離れるのが寂しいとか!? まったくもう。みんな甘えんぼさんだなあ、ハッハッハ。←馬鹿はお前だ
「うわー、立派な木だねえ」
「(木の幹を押し上げながら)みんな俺が支えている間に先に行け!」
「MADー!! じゃあさいなら」
「ちょっと待てやゴルァーッ!(ゴイン!) グァーッ! 木に頭ぶつけたー!!」
「向こうからおじさん来るって。恥ずかしいって!」
思ったよりデカイ倒木をワイワイ言いながら乗り越え、俺たちは車へとむかい歩き出した。
「・・・あれ? さっき見かけたおじさん来ない・・・」
「え? 川の方に降りて行ったよね?」
「うん。黒い人影、絶対見たって!」
「俺も見た。え? あれ? 消えた?」
「河童だ。きっと河童だよ!!」
うひょーい! 旅行の趣旨に相応しい妙な事件を挟みつつ、俺たちは車に乗り込んだ。ブルルンルン。
「あー、車ん中あったかい」
「まったくまったく!」
「城跡見れないのは残念だけどね。――ってアレ!」
「なに? うわ! ウシ!?」
「ウシが何十頭も! ズラーって! ズラーって!!」
車 ん 中 大 興 奮 。
ウシでこれほど喜べる大人も珍しかろう。ウシもきっと喜んでくれていることであろう。(多分知ったこっちゃありません)
「そーいや俺ん家の近くにウシ引きのオッサンがいて」
「ほう」
「映画撮るときとか牛車引ける牛って少ないらしくて、おっさんに東京とかからもお願いに来るらしいよ」
「へえ」
「東京遠いからイヤ、つーて断ったらしいけど」
「断んのかよ!」
「で、京都までロケに来るからお願い!って言われて、まあ京都まで来るならいいか、つーて引き受けたらしい」
「技術持ってる人は強いって話ですなあ」
ワイワイワイ。
そんなことを話してるうちに、次の目的地「戸隠神社」に着いた。ここが俺の目的地、「重ね岩」のある神社である。
「ひなびた神社だねえ」
「でも、キレイに掃除されてるよ!」
「ひぐらしに出てきそうだなあ」
天の岩戸の一部と伝えられ、43tもありながら片手で動かせる天下の奇石重ね岩! さあ揺らすぜ! 腕が鳴るなあチリンチリン♪
「 上 に 登 り 岩 を ゆ す る こ と を 禁 止 し ま す 」
オゥシット。
そうだよね。危ないもんね。あーーーーうーーーー。
悔しいので、近くにあった大岩に登ってやりました。降りられなくなりかけました。いやあ、マジで骨折を覚悟したね!
岩のそばに「境界」って書かれた杭が打ち込まれてたんですけど。危なく渡ってしまうとこでしたよ! あっちの世界行っちゃうとこでしたよ!
いい年なんだから、そろそろ自分のムリを見極められるようになろう、と思った。うん。それが一番ムリだ。
あ、重ね岩自体はとてもいい岩でした。動かしてみたかったなあ。
鳥居がわりであろう赤い鉄杭の並ぶ参道を抜けて、俺たちはもう一つの目的地、「鬼の首」のある念興寺へと向かった。
(続く)