私が羽田空港を訪れたのは、まだ風も寒さをはらむ、4月の終わりのことだった。
年間の航空機発着数約28万5000回。航空旅客数は約6673万人。正式名称を「東京国際空港」というこの空港は、1931年の開港以来、日本最大級の空港として、日本全国から旅人を受け入れ、また、送り出してきた。
今日、私もその一人となった。
窓ガラスを通し、私は一機の飛行機を見る。それは、私を伊丹から運んできた飛行機だった。薄曇りの空の下で、灰色の地面の上に身を縮こまらせるようにうずくまったその姿は、まるで仕事と、人生に疲れた老年の男のように見えた。
窓に息があたり、白くけぶる。同じ飛行機に載っていたと思しき、通行人達の声が、聞くとも無しに、耳朶に響いた。
「仕事が」「ディズニーランドに」「乗り継ぎで成田へ」
当たり前の話だが、通り過ぎる人たちには、それぞれに旅の目的があり、そして同じ数だけの人生があった。袖すり合うも他生の縁、と言うが、ここですれ違った人たちの大半とは、きっと、二度とすれ違うことすらないのだろう。
曇った窓に、一人の疲れた男が映った。うずくまる飛行機と重なったその姿に、私は思った。
私と言う名の飛行機の、その行く先はどこなのだろう――と。
「――で?」
「うん? どうした友人M?」
「いや、だから、その借りたレンタカー屋はどこにあるのよ!?」
「それが見当たらなくてさあ! ぶひゃひゃひゃひゃ!」
窓から顔を離し、俺は爆笑した。
お陰さまで、MAD号というその飛行機は、見事に遭難していた。まあ、いつものことだがな! 大丈夫! 最後に目的地に着きゃあいいのさ! すべての道はローマに通じ、俺の後に道はできるのである! ロング・ロング・ワインディングロードッ!!
現在、日本のレンタカー業界は価格破壊の真っ最中にある。トヨタをはじめとするレンタカー会社が、小型乗用車で12時間5,000円超で貸し出していた時代は終わり、
ニコニコレンタカーをはじめとする業界の新興勢力が、その半額以下でレンタルを開始していた。
今回我々が借りたのは、そういった格安レンタカー会社のひとつ、Jネットレンタカーというレンタカー会社であった。群馬→東京間の高速道路は、高崎以東が死ぬほど混む。なので、最初はニコニコレンタカー高崎店で借りて、そこまでは電車で行こうと考え、車も抑えていた。その予定を変えたのは、同行の友人Mの言葉であった。
「いーじゃん。渋滞を考慮に入れて、帰りを2時間くらい、早くしたらいいんだろ? 車のほうが騒げて楽しいやん」
その意気や良しッ!!
俺も、「旅行は行く最中の車の中が一番楽しい」というタイプである。しかも、今回の旅は、a・chi-a・chiアドベンチャー! 車の中で、a・chi-a・chiの曲をかけまくり、歌い踊りつつゆかりの地をめぐると言う趣旨である! ならば、車に乗っている時間は、長い方がいいッ!
そんなわけで、出発3日前に急遽予定を変え、羽田空港近辺でレンタカー屋を探し、見事見つけたのが、
Jネットレンタカー羽田空港店だったのである。リース料はJ2マーチクラス・2日間で9,240円。バッチリである。
勇躍予約し、ここまで来たのであるが。
お 店 の 場 所 メ モ す る の 忘 れ た ☆
つか、てっきり空港内に受付カウンターがあると思ったら、無かったのである! そらそーだ。良く考えてみたら、格安レンタカー屋が、そんな金のかかる受付なんざ、維持してる訳ないわな。
逆境である。いきなり迷子である。だがしかし! このMAD、その程度の逆境は日常茶飯事だ! 舐めてもらっては困る!
俺は不敵な笑みを浮かべ、スチャッ!とケータイを取り出した。そして、おもむろにgoogleへと接続。検索。数秒後、ケータイの画面には、お店の場所が映し出されていた。
フ、と俺はハードボイルドな笑みを浮かべた。隠そうとしても無駄さ。お前はもう、俺の手の中だ。俺の手は、おまえらの考えているより、遥かに長い。
「いや、だから、最初からちゃんと調べて、地図とか用意してこいよ」
「おにょにょのぷう」
京急空港線に乗り、大鳥居駅で下車。歩いて5分のところに、その店はあった。我々はそこで車に乗り込み、一路群馬を目指して旅だったのであった。続く!!