和歌山ミニツアー。後編

MAD

2009年12月10日 22:54



 今回向かったMar's Speedさんは、和歌山にある車屋さんである。主に英国車を取り扱っておられるお店なのだが、正式名称をマーズ・スピード・ジャパンと言う。その名のとおり、本拠は英国にあり、ここはその日本支店にあたるそうな。

 とはいえ、社長さんは日本人である。なんでも英国で英国車の流通や改造、部品製造に携わり、日本と英国を行き来する中で、日本での拠点としてこのお店を立ち上げたらしい。趣味性の高いお店だけに、和歌山というと失礼ながらちょっと不便な場所に思えるが、中古車販売店と言うよりも、貿易会社の一拠点、メインの輸入商材は英国からの送り込みと言うことで、場所はどこでも良かったのだと言う。
http://www.mars-speed.co.jp/

 そういう会社であるからして、取り扱う車の品質、アフターケアは万全。マニアな皆様の間では名の知られたお店であるらしく、志野もその評判を聞いて購入を決めたのだろう。

 契約を待つ間ぼへーっと見てまわると、見たことない車がゴロゴロあった。誰も頼んでいないのに、志野が解説をカマしてくれる。

「その車はバンデンプラスプリンセスっつーてなあ、『ミニ・ロールス』と呼ばれた高級車なんだよ! その車が来たら何を差し置いても一番に出迎えに出るようにってのが、高級ホテルやレストランのドアマンの常識だったらしいぞ!」

「そいつはミニのワゴンタイプでなあ! 木枠がついてるんだ! 木枠だぞ木枠! すごいだろ!?」

「ウーズレーのこのグリルが! 鼻がっ!!」


 うん。黙れ。


 放置して2階、3階にあるアンティークや雑貨を見学していると、「良かったら試乗してみませんか?」というお話が。

 ええー? そうですか? まあ、そんな機会めったに無いしね。そこまで言ってくださるならどーしよーかな? ねえ、友人M?

「じゃあMAD君、お先に」(ブロロロロー)


 もう乗ってるー!?Σ(゚д゚lll)ガーン


 そして、十数分後。

(バルルルルーン! キュッ)「いやあ、楽しかったよ!」

「お、おかえり。じゃあ次は俺が…・・・」
「じゃあMさん、これ」
「店長さんありがとうございます。ふーん、コミコミで90万ちょっとか……」
「え? 友人M、それってもしかして……」


 見積書もらってるー!?

「いや、僕実は前にミニ欲しくなって、探してたことあんのよねえ」
「何その初耳の設定ー!? そんなの聞いた事ないですよ!?」
「え? 店長さん、神戸に懇意のお店があるんですか? そこを紹介したら、アフターサービスもバッチリ? おお、それはありがたい! この前再就職してからこっち、ちょうど通勤用の足が欲しかったところなんですよねえ。これなら即金で買える価格だし、買っちゃおうかなあ? はっはっは」
「こ、こいつ!?」

 くそお! 俺は15年前くらいから欲しいって言ってたのに! それがまさか志野に続いてみゅりうすにまで先をこされるだと!? おのれ! おのれええええええ!!!!!

 この日俺は、Mという男の恐ろしさを、再び思い知らされたのであった。


 そして、運転してみたんですけど。


「重ッ!?」

 ミニ! その名と姿に反して、こいつは重量級だった! さすがに旧車とあって、パワーアシストがないのである! それゆえに、ステアリング、ブレーキと、思いっきし力を込めないと動かない、回らない! その特徴は低速での挙動に顕著で、駐車ん時なんて大汗である。スピード出しているときはまだマシなのだが!

 さらに、アクセルとブレーキのペダルが近く、思わず両方踏みそうになったり、ATがとっても大味で、ガツン、ゴツンとギアが変わるのが体感できる。クリープ現象も力いっぱいで、ブレーキから足を離すや、結構な速度で飛び出していく。低速ならクリープだけで十分な巡航速度が稼げてしまうくらいである。そして、そのクリープを抑えるためのブレーキが、トンデモ重い! 力いっぱい踏みしめてないとキッチリブレーキが掛からないので、小時間乗っただけでも、右足が変な痙攣を起こす勢いである。

 もちろんそれ以外にも旧車らしい部分はいっぱいあって、まずエンジン音が大変うるさい。そして、それと直繋ぎだけに、ハンドルがトラックやバスみたいにものすごく振動する。窓はもちろん手動で、さらにエンジンを掛けるキーと、扉をロックする鍵は別物だ。あと、ウィンカーが日本車と違い、左側にあるのも地味に効く。重ステとブレーキの取り扱いに慌てているうちに、つい右側のレバーを操作してしまうのである。そうすると、雨も降っていないのにワイパーが視界を掃除してくれるのである。本当にありがとうございました。


 だけどこの車、すっごく楽しい!


 旧車好きがよく旧車の魅力の一つとして、「車を運転していると言う実感が感じられ、楽しい」ということを挙げるが、なるほど、と納得できる。こいつは楽しい! その不便の一つ一つが、なんとも愛しいのである。うひゃうひゃ言いながら楽しんでました。うんそこ、マゾって言うな。

 しかしこれ、ジジイになってから乗るって言ってたけど、ジジイになってからだとちょっとしんどい気もする。まあでも、いい車だよなあ。買わないけど。お、志野、契約すんだの。

「おう。ついでに、上のアンティークショップで、荷物運び用のビンテージ・トランクも買ってきた!」
「トランクねえ。グローブトロッターなら欲しいけどな。買ったの、そこのクリーム色のやつ?」
「そうそう。やっぱこの色が上品でいい! この色と、グリルが欲しくて探し回ってたからな!」
「上品ねえ。まあ、人間自分にないものに憧れるって言うしな! 俺はやっぱクーパーで、伝統の緑か、赤がいいけどな。で、白のライン入ったやつな! 店頭にも並んでたけど、超カッコいい!」
「ふーん。ポールスミス・モデルて変わり種の色もあるけどな」
「なんじゃそりゃ。やっぱあのレインボー?」
「それもあるけど、ええと、この本に載ってるかな。ほれ」



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