そんなわけで、先日SPITZのライブ『SPITZ JAMBOREE TOUR "さざなみOTR"』@びわ湖ホールに行ってきた。(唐突)
友人のご友人が行けなくなったとかで、チケットを譲っていただいたのである。ありがたやありがたや。一緒に行ったのはネットでお知り合いになったやぐさんである。なぜそー言うことになったかというと、話せば長いことながら。
『やぐさん! チケット余ってるんですけどその日ヒマじゃないですかヒマに決まった行きませんか行きましょう!』
『いえヒマなんですけど、行けるの開演時間ギリギリで、御迷惑かけそうだから今回は・・・』
『ギリギリってことは、遅刻してなら来れるってことですね! 遅刻OKですさあ行こうすぐ行こう今行こう!』
『しまったー!?』
とゆー展開があったからなのである。(一部脚色有) 嘘のつけない人の良さゆえに、仕事が終わった後、滋賀くんだりまで引っ張り出されるやぐさん。悪徳業者に付け込まれたがごときその境遇に、涙を禁じ得ない今日この頃です。おろろんろん。(誰のせいだよ)
そして、6時15分。仕事を終えて大急ぎで電車に乗り、遅刻もせずにちゃんと来て下さったやぐさんを乗せて、我が愛車はびわ湖ホールへと降り立った。3年前、山崎まさよしのライブに来て以来である。
びわ湖ホールはもともとオペラなどを上演するために作られた芸術会館であり、創設は98年とあって、設備も極めて新しい。現代技術を駆使して作られたホールは素晴らしい音響を誇り、「音響家が選ぶ優良ホール100選」にも選ばれているのだという。また臨場感あふれる鑑賞が楽しめるよう考慮して客席も設計されており、通常であれば演者からほど遠い3階席、4階席のものでも、充分演者の表情や声を堪能できるという素晴らしいホールなのである。
・・・まあその分、素敵な金額の赤字を計上していて、存続の危機に瀕してたりするのだが。芸術にはお金がかかるけど、日本にゃ欧米みたいな、タニマチになってくれる財団とかほとんどないからねえ。
閑話休題。
その音響素晴らしいホールで、スピッツのライブが聴けるのである! こりゃ素晴らしい! 興奮しつつ席に着くと、俺は周りを見回した。黒い髪。地味な服。9割女性で、30代~60代くらいまでと、異常に高い年齢層。
な ん て 偏 っ た 客 層 な ん だ 。
くつろぐぜ!
こりゃあ山崎まさよしん時より、のんびりしたライブになりそうだ。まあ、おだやかな曲の多いスピッツだしね。席に腰掛けつつ、ゆったり草野マサムネのあの癒しボイスにひたろうではないか! そんなことを思いつつ、軽く談笑など楽しんでいるうちに、ついにメンバーが登場した! うおおおお! 生スピッツー!!! と興奮する俺を尻目に、その瞬間!
一 斉 に 立 ち 上 が る 観 客 達 。
エエエエエ!? 立つの!? みんな立つの!? そんなおとなしい振りをして、実はみんな熱いのね!?
慌てて立ち上がる我々。そんな風に微妙に空気を掴めないまま、ライブは始まった!
挨拶もなく、曲が流れ始める。ニューアルバム『さざなみ』CDに収められた曲だ。そしてそのメロディに乗って、あの草野マサムネの、柔らかで暖かな歌声が流れ出す。その歌声を聞きつつ、俺は思った。
うむ。分からん。
ぶっちゃけ、実はまだ俺様『さざなみ』CD聞いてないのである! 新曲、サッパリ分からんのである!! ここにいてスイマセン。産まれてきてゴメンナサイ。
思わず緊張する俺の心を解いたのは、SPITZメンバーの爆笑トークであった。幕間にポツポツと草野マサムネ氏がしゃべるのだが、これが異常に面白い。ラスト近くのメンバー紹介のトークもめちゃめちゃ面白かった。ちなみに、内容はこんな感じ。
◆草野マサムネさん
「昨日びわ湖にでっかい虹が出てたんですけど、見た人います? すごかったよねえ。昨日はお休みだったんで、湖岸を散歩してたんですよ。魚いないかな、と思って石をひっくり返したりしてました。巻き貝がいましたよ! うん、端から見たらあやしい人ですよね! 平日の昼日中に! それで虹を見たんですけど。いやあ、キレイでした。・・・うん、この話、どこにも行きません」
「予想はしてた」
「! そうだ! 滋賀と言えば皆さん、これ知ってます!? (ギターを取っておもむろに歌い出す。) 琵琶湖温泉~♪ ホテル紅葉~♪」
滋 賀 県 民 狂 喜 乱 舞 。
「これね、福岡で流れてたんですよ!」(どよめく会場)
「静岡でも流れてたよ」
「栃木でも聞いた気がする」
「すごい! 関東でもやってたの!? 全国規模じゃん! 九州の温泉でCMで有名なのって別府杉の井ホテルくらいだけど、知らないでしょ? 別府杉の井ホテル~♪――って、俺しか盛り上がってないよ! すごいねホテル紅葉。まあ、誰も泊まったことないんだけどね。ようし、今度みんなで泊まりに行こうよう」
◆田村明浩さん
「アンガールズの田中君と同じTシャツです。TVで来てくれてて嬉しかったなー。昨日はね、PARCOにCD買いに行ってました。今、タワーレコードさんの企画で、ショッピングバッグをデザインさせてもらったんだよね。スピッツとくるりと綾香さんとEGO-WRAPPIN'で。それもらって自慢しようと思ったんだけど、ホラ、スピッツの袋下さいって言うの恥ずかしいじゃん。だからCD6枚買ったんだけど、袋4枚に分けて、って言ったんだよね。これなら1枚はスピッツのになるだろうと! で、もらったら袋全部裏向けなのね。そこで見るの恥ずかしいから、外に出てすぐ開けてみたよ!
1枚目、くるり!
2枚目、くるり!
3枚目、くるり!
そして4枚目-!!!
く る り 。
少しは考えてくれー! PARCOの店員さんー!!!」
「京都のそばだし、くるりしかなかったんじゃないの?」
「いや、前の人は綾香さんの貰ってた! PARCOの店員さんー!!」(絶叫)
◆クジヒロコさん
「昨日は比叡山に言ってました。あそこ、ケーブルカーがあるのね。日本で二番目に長いケーブルカーだって書いてあった。それに乗り込んで座ってたら、『隣よろしいですか?』って言う人がいて、見たらサキちゃん(ドラムの崎山さん)でした。で、二人で上まで昇って観光してたら、あそこ比叡山高校って高校あるのね。で、文化祭シーズンなのかな。そこにいったらバンドの演奏が聞こえてきて! その曲がね、スピッツの曲だったの!(会場大歓声)
ま あ 、 嘘 な ん だ け ど 。
いや、これでスピッツの曲が流れてきたら出来すぎだなーって」
「なんの曲だったの?」
「うん? 良く分からなかったけど、お化粧系の曲。(笑) 女の子にモテそうなの!」
「スピッツの曲じゃモテないよねえ」
「あはは。たぶんこの話、サキちゃんが言うつもりだったと思うネタ、先に言ってやった。さあ、どうぞ!」
◆崎山龍男さん
「まあ、そうやって二人で上に上がって、観光したりしてました。そうそう、鐘がつける場所があってね!」
「鐘? 勝手に突いていいの?」
「うん。『連打禁止』って書いてあった。(笑) で、二人で鐘を突いては写メ撮りまくってました!」
「端から見たらカップルだね」
「比叡山て広くて、3つくらいの場所に分かれてるのね。で、行ったのが夕方だったから、途中で雨が降ってきてこりゃヤバイってなったりして、一つしか回れませんでした。次は全部回りたいと思います!」
◆三輪テツヤさん
「ビックカメラに行ってました。滋賀まで来てなんでビックカメラなんだって自分でも思うけど、そんな気分だったんだ! で、帰りに大津駅出たら、大声でマドンナの『Like a virgin』歌ってるサラリーマンの集団がいて、いや、歌ってるのは一人だったんですけど、からまれないかとドキドキした」
「からまれやすそうな外見だもんねー」
「しかし、この話はどこに行くんだ。デビューしてだいぶたつけど、今だにトークすると真っ白になってワケが分からなくなるんだ!」
「あー、それ分かる」
「でもそんな時でもバレないサングラス最高ー! サングラスすごい! ええと、今回ここに来れて電車も乗れて、本人的にはとても嬉しかったです! また来たいと思ってますのでどうぞよろしく!」
みたいなトークで、会場ドッカンドッカン湧かせてました。ウロ覚えで書いてるので怪しいところもあると思うがまあ許せ。
緊張がほぐれてみると、分からないなりに、ライブは楽しかった。やはりスピッツの曲は性に合うというか、好きなメロディーラインなのだろう。分からぬままに、どこか心地良い。それに、草野マサムネのあの声、あの歌。コンスピレーションアルバム聞いたときも思ったが、やはり草野マサムネの声は唯一無二だと思うのだ。同じ曲を歌っても、他の誰もあの「世界」は再現できない。
と、そんなことを思いつつスピッツ・ワールドに浸っていたとき。
電撃が俺を刺し貫いた。
「君が思い出になる前に」。
それを皮切りに、俺が聞き、慣れ親しんだ曲達が混ざり始めた。「スパイダ-」。「渚」。そして、「チェリー」。
ぞくぞくとした。鳥肌が立った。知らず、口から歌詞が漏れた。若かりしあの頃、染みこむほど聞き込んだあの曲達。バカみたいに何度もカラオケで歌った、あの歌達。疑いなく身体の一部と化している曲に全身をさらされ、細胞たちが歓喜の叫びを上げているかのようだった。そして、その興奮が最高潮に達したのは、次の瞬間だった。
8823。
うおおおおお!!!! きぃたぁあああああああ!!!!!
聞けた! ついに聞けた! 俺がこれをさえ聞けたら、と願っていた2つの曲の一つ! 焦がれていた歌の一篇! 知らず、身体が前のめりになった。頭が真っ白になった。足がリズムを取り、手のひらが打ち鳴らされる。多分その時、俺は狂ったような笑顔を浮かべていたに違いない。押さえ込もうとしても抑えきれない笑いをこぼしながら、俺は食い入るような瞳でステージを見つめ、ともにその歌詞を口ずさんでいた。最高の夜だった。
俺を目眩く酩酊の中へとたたき込んだ「8823」が終わり、数曲をはさんで、ライブは終了した。
楽しかったですね、とやぐさんが言った。そうですね、と俺も言った。
ホールを出ると、肌寒くなった秋の夜風が、火照る体をひんやりとなぜた。ブルリと身体は震えたが、不思議と寒さは感じなかった。それは多分、俺の身体を襲う興奮と満足感のためだったのだろう。
尽きせず、あたかもさざなみのように押し寄せるその感情に身を浸しながら、俺は思った。「8823」は聞けたけど、もう一つ聞きたかった俺の一番大好きな曲「青い車」が聞けなかった。あと、やはり最初にスピッツを知った大ヒット曲「ロビンソン」や「空も飛べるはず」も、ぜひ生で聞いてみたい。
くるくると脳内をまわる埒もない考えを楽しみながら、俺は車へと乗り込んだ。やぐさんが助手席に座ったのを確認し、エンジンを掛ける。さて、と俺は思った。
次は、どの会場に行こう。
チケットを取るには、やはりファンクラブに入った方がいいのかな。当日券も、けっこういい席が出てるらしいぞ。会場は、どこがいいのかな。
そんな思いを抱きながら、車は遠くへ走り去っていった。