超ラノベ風妄想バトン。その5。

MAD

2007年12月13日 12:30



5、【NORIMITSUさん】があなたに料理を作ってくれました…さてメニューは?

「で、結局どういうコトなのさ」

 崩壊した自分の部屋の中で、俺は則光と向かい合いながらメシを食っていた。窓は割れ、部屋はぐちゃぐちゃ。吹っ飛ばされたドアは立てかけてあるだけだったが、それでもやはり愛しの我が家。帰って座ってみれば、なんだか落ち着くのである。

「切り干し大根食べる?」
「いただきます――ってそうじゃなくて!」

 ツッコミながらも、俺は切り干し大根を口に運んだ。旨い。かっ込んだご飯もつや光り、お米の立った絶妙の炊きあがりだった。油揚げと豆腐の入ったみそ汁なんざ、煮干しからキッチリと出汁を取った涙ものの味である。これが全てこの目の前の超美人のお手製なのだから、普通なら涙を流して頂くとこだが、先ほどの闘いと、変身する前の姿を知っている今となってはそうもいかない。

 そう、料理は則光お手製であった。則光のまとう着物は、京の花街嶋原芸子の最高位“太夫”の衣装。重さ20kgにもなるというその着物と、お腹の前で「心」の文字の形に結った五角の帯は、「家事雑用をしなくて良い」と言うその身分を象徴するものなのだそうだが、なかなかどうして。不自由極まりないであろうその衣装を苦にもせず、則光は見事に手際よく、一汁五菜の晩飯を作り上げてみせたものである。・・・時々、鍋が見えない力で飛んでたりしたが。

「“管狐”ってのは、いわゆる使い魔さね」

 油揚げとホウレン草の煮浸しを口に運びつつ、則光が言った。いつ口に入ったのか分からないような、不思議な食い方だった。

「伏見稲荷に勧請し、竹管に入れて下される。それゆえ“管狐”と言われるの」
「へえ」
「“尾裂”あるいは“御先”狐。“飯綱”なんて呼ぶ地方もあるけどね。で、それを使うのが“管持ち”。アンタの血筋よ」
「うち、本家四国だぜ?」
「秀吉の陰陽師追放も知らないの? “殺生関白”豊臣秀次失脚時に、土御門家を始め陰陽師のことごとくが流されたって事件があったでしょうが」

 最近の若いもんは、そんなことも知らないの? 嘆かわしい。そう言って大きくかぶりを振ると、則光は味噌を塗った牛肉をかじった。看病あけに食って以来、気に入ったらしい。高いのに。どうせ味噌つけて食うならキュウリ食ってろキュウリと言いたいけど、言えない俺がかわいそうだった。

「近世以降は陰陽師も、土御門家による鑑札制になったしねえ。縛られるのはイヤだって潜ったのも多かったし。その辺でしょ。きっと」
「へえ、じゃあ、則光もその“管狐”ってやつなの?」
「殺すわよ?」

 即答だった。目がマジだった。

「誰があんな低級霊獣と一緒よ!? アタシは天狐! 1000年以上の齢を経て、仙を越えて神となった偉大なる存在よ! 世が世なら、話も出来ない尊い存在よ!? 崇めなさい! 祈りなさい!」
「はは〜」
「うむ。苦しゅうない」

 俺たちは同時に吹き出した。闘いが終わってすぐあの同調は消えてしまったが、なかなかどうして。悪くない呼吸じゃないか。

「ま、アタシはお稲荷様の御使いやってたんだけど、人間にゃあ千年に一度くらい、とんでもないのが出るもんでねー」

 そう言って、則光はくつくつと笑った。

「なんと! このアタシを管狐のように使役しやがった野郎がいたんだな! 4尾の天狐をよ!? どれだけスゴイかとゆーと惑星間航行を可能にした異星人の宇宙船をMacでハックして、ウイルスぶち込んで墜とすくらいっ」
「・・・例えが微妙すぎて、良く分かんねえよ・・・」

 つか、そーゆー映画あったなあ。あれ、だいたいどうやって接続したんだ。ゲームウォッチで量子コンピュータをハックするよりスゴいぞ。多分。

「で、それがなんであんな姿に?」
「だから、あの猿のせいよ」
「あ?」
「秀吉の陰陽師追放! それで、アイツ等は西国に。アタシ達は東国に流されたのよねー」

 ツライ時代だったわ。しみじみと則光が語る。

「飯縄山のお社に疎開してたんだけど、あそこの狐にゃ根性悪いヤツが多くてねー。よく苛められたもんだわ。トゥシューズに画鋲入れられたり」
「安土桃山時代に、そんなもんあんのか!?」
「じゃあ、草鞋に撒き菱」
「“じゃあ”って適当だなオイ!?」
「猿オヤジが死んで追放は解かれたんだけど、そらまあ腹立つじゃない!? ムカツクから秀頼苛めに精出してたら、気づいたら10年があっという間に過ぎてて」

 俺のツッコミ、流しやがった。

「しかもそれで大阪方弱っちゃって。いつの間にか家康のバカが天下取りやがんの! なによ狸オヤジのくせに! 狸は嫌いなのよ! 阿波の金長狸はいい男だったけど!」
「知るかよ」
「京に戻ってもアイツは居ないし、バカバカしくなって、また旅に出ちゃった」
「はあ。でも、なんで男の姿に?」
「追放された時、ちょうど仕事中だったのよねえ」
「仕事中?」
「そう。お稲荷さまっつーたら、商売繁盛、五穀豊穣の神様じゃない。信者の願いは叶えてあげないとねえ」
「なるほど」
「で、稲刈りの手伝いを」
「えらく地道だなオイー!?」

 なんだかもう、突っ込むのも疲れてきた。

「ま、それからは、宿から宿の旅烏よ。もともと踊りは好きだったしね。各地で舞ったり遊んだりしながら暮らし続けて、そんな中で、“赤靴教団”を知って。探ったり邪魔したりしてたら目をつけられて、襲われて。大けが負ったとこをアンタに拾われたってわけ」
「なるほどね。で、どーすんの?」
「どう、とは?」
「乗り込むんだろ!?」

 俺は、身を乗り出した。則光がインコ頭の記憶を引き出した時、俺も見たのだ。奴らの本拠地と言うべき場所を。

「まあね」
「ようし、じゃあ行こうぜ! 奴らを叩きつぶそう!」

 俺は勢い込んで言った。同調していた時の感覚が戻ってくる。あの高揚感と全能感! あれなら勝てる! きっと勝てる! 俺たちは無敵だぜ!

 そんな俺に向かい、則光はでも、すげなく言った。

「なんで?」
「え?」

 踏み出した足をサッと払われたような一言に、俺はたたらを踏んだ。

「え? え? え? い、行かないの!?」
「行くわよ。でもなんで、アンタと一緒に?」

 則光は婉然とした笑顔で、言葉を繋いだ。

「解放してくれたとこで充分。悪いけど、一緒に乗り込むにゃ、坊やじゃちょっと力不足ね」
「そんな!? ――って、あれ?」

 不意に、視界が歪んだ。途方もない眠気が、俺を襲ってくる。

「うーん、さすがハルシオンはよく効くわねえ」

 感心したように、則光が言った。お前まさか、睡眠薬を!?

「“睡眠導入剤”って言いなさいよお馬鹿さん。だいじょぶ。副作用ほとんど無いから」

 ケラケラと笑って、則光が言った。

「万一ついてこられたら面倒だからねえ。世話になったね。お休みなさい」

 ここまで来て、そりゃないぜ! フランス料理のフルコースで、前菜だけ食って放り出されるようなもんじゃないか。

 なんだか途轍もなく情けない表情を浮かべながら、俺は泥沼のような眠りへと落ちていった。
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