男達の旅路。

MAD

2010年01月24日 17:10






 俺の愛してやまなかった旧居酒屋にして、現在喫茶店絶賛準備中の某Tへ、散髪に行ってきましたよっ。

 前回行ってからまだ一ヶ月も経ってないが、ちょっと用事があったこともあって、早めに行かせて頂きました。

 持ってきた『センゴク』をお渡しし、奥様と髪を洗ってもらいながら「うみのこ」について軽くトークをかまし、参加してる子どもの親御さんの中に同級生がいるという事実に衝撃を受けつつ席に着けば、繰り返されるのはやはりバカトークなのである。

「ご無沙汰ですー」
「お久しぶりですMADさん! 昼ご飯食べました?」
「ええ。マクドにテキサスブロンコテリーマンじゃねえや、テキサスバーガー食いに行ったら売り切れてたんで、モスに行ったら『極チーズバーガー』ってのがあって食ったら、これがあなたうめーのなんのって!」
「あああああー! あれ美味しいですよね!」
「おおおおお! こんなところに同志が! おいしいですよねー! モスあまりお店無いし、食べた人周りにいなくてこの感動をどうしてくれようと思ってたんですけど! まさかこんなとこに同志がいようとは!」(以下15分モスとトマトの話で盛り上がる)
「うまいと言えば、MADさん! 子どもの頃に食ったアメリカンドッグがうまくてですねえ!」
「おお! アメリカンドッグ! チョコレートパフェと並ぶ、憧れの食い物の双璧でしたよ! 甘い皮と塩気のあるソーセージのハーモニーが!」
「ですよねえええええ!!!! ところが、娘がそれを食ってたら、半分くれると言うんですよ!」
「なにぃぃ!? 天使か!?」
「違うんですよ! 周りの甘いのが気持ち悪いって!」
「ありえねええええ!!!! 俺が子どもの頃だったら、あの下っかわのカリカリしたとこまで『リスか!?』と言う勢いでこそげ取って、棒だけにしてからしか上げませんでしたよ!」
「それを『あげる』というのかはさておき、同感です! しかし、そんな娘が“マックグリドル”って甘いパンケーキみたいなのに挟んだ、マクドのバーガーは喜んで食べるんですよ! 俺にはそれが許せない!」
「あ、僕そのバーガー知らないのでどうでもいいです」
「流されたああああ!?」


 みたいなジャブの応酬から始まり、話はやがてマニアックな方向へと進むのである。


「そーいやこの前、シモ・ヘイヘの話してたときおっしゃってた星野勘左衛門って誰ですか?」
「あー、言ってましたねえ! 江戸時代の尾張藩の武士で、三十三間堂の通し矢で記録作った方です。幅2.5m、高さ5.5m、そして長さ120mの会場で、記録総矢数10,542本中、通し矢8,000本ですよ8,000本! 昔アーチェリーしに行ったことがあるんですが、120mなんざありえん距離でしたわ! お前はハイ・エルフか! シュート・アローの精霊魔法使えんのかと!」
「エルフ?」
「いや、こっちの話ですすいません。しかもこの競技、通常は24時間で何本通せたかを競うそうなんですが、星野さんこれがまたすんげえ人でしてね。『体力的にもまだ余裕はあるし、時間もあるようですが、通し矢は競い合いによる弓術の技術向上が目的。これ以上は更新達のやる気をそぎかねませんので、これにて終了させて頂きます』と、残り6時間を残して切り上げたという」
「へえー! 最後までやってたらどこまで記録伸びてたんでしょうねえ!」
「まったくです。ちなみにこの記録、後に紀州藩の和佐大八という天才少年によって破られ、これが現在に至るまでの記録なんですが、これがまた奮ってまして」
「ほう」
「最初失敗続きだった和佐に星野が助言を与えたところ、それ以降射が安定し、8,153本という大記録に繋がったそうです。ちなみにこれ、総矢数13,053、24時間やっての記録。星野は尾張藩の同僚達に『紀州藩の奴に助言して記録を破らせるとは、藩の面目が!』と責められたとき、『命中度では俺が上だし、その意味では記録破られてないんだから、いいじゃないですか』と言って周囲を納得させたそうですね」
「出来た人ですねえ」
「まったく。ちなみに、この二人。その記録に残っている矢数を時間で割ってみると、星野で約6.15秒に1本、和佐で6.62秒に1本射てる計算になるそうです。120m飛ぶ強弓を、24時間、的に当たる精度で。


 お 前 ら は 人 間 ガ ト リ ン グ 砲 か 」


「ぶはははは! すげえー!」
「ちなみに、1987年に5段の方が挑んだときには、1時間、100本の挑戦で、通せたのは9本だけだったそうです。まあ、プレッシャーもあるでしょうけど、それでも昔の人ってのは桁外れですなあ」

◆wiki「星野茂則」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%9F%E9%87%8E%E8%8C%82%E5%89%87

◆やる夫の剣豪ものがたり <その37 大激怒>
http://mukankei961.blog105.fc2.com/blog-entry-1722.html#more

◆三十三間堂 通し矢に挑戦
http://www.koyama-kyugu.com/guide/toushiya.php

◆国宝 三十三間堂通し矢
http://www.a-rchery.com/sanjyusan.htm

「いやいや、面白いですね! アーチェリーは最近行ったんですか?」
「いや、だいぶ前ですね。最近は『アバター』見に行ったりはしたんですけど、遠出は『リアル脱出ゲーム』くらいですね。連休に流氷ウォークか犬ぞり体験行こうかと思ったんですが、流氷ウォークはまだ流氷が来てなくてやめました。犬ぞりは……」
「犬ぞりは?」
「よく考えたら、家族連れかカップルしか着てない気がして、行ったら死にたくなりそうだから止めました」
「ぶはははは! いいですねえ! 遠出するってことは、この辺で出来ることはほぼやりつくしましたか!」
「飛んでも八分歩いて十分! 僕の5年越しの野望である羊と豚の丸焼きが、ぜんぜんできません!」
「ほう?」
「いろんな人を誘ってるんですがねえ、全員グロいと言われてさようならですよ。5年誘い続けて、いまだに賛同者1名ですよ! しかも、その人住まい東京だよ! できねええええええeeee!!!!」
「……MADさん」
「どうしました? オーナー?」


「その夢、かなえましょう」


「まさか!?」
「ええ! 信楽の我が家の庭、お使い下さい!」
「なんと!?」
「メンバーが足りない? ふ、お任せ下さい。いつぞやともにうどんツアーに旅だったAとB、奴らは必ず来ます。そして、うむ。Cも呼びましょう。革のベストにブーツ、テンガロンハットを愛用する熱い男です」
「おおおおお!」
「5年越しの夢? いいじゃないですか! グロい? 上等です! かなえましょう、その夢! 実現しましょう、その浪漫! 男は、夢を叶えるために生きているのです!」
「オーナーあああああ!!!!」
「いやあ、楽しそうだ! ぜひ参加させて欲しいんですよ!」
「くう! おれの5年越しの夢が叶おうとしている! これやらせてくれるなら、羊と豚は持ってきますから、皆さんお力だけ貸して下さい!」
「はっはっは、それはダメですよMADさん。参加するんですから、ちゃんとお金は皆で払いますとも!」
「お、漢だ! “漢”がここにいる……!!!」


滂沱と涙を流す俺を横目にオーナーは優しく微笑み、言った。


「そうだ。ナイフも用意しないと」
「へ?」
「それからコルトだな! コルトとガンベルト! これを腰に差して、ナイフで羊の肉をそぎ切りにして、にやりと笑うぜ!」
「ちょ!? この人、俺の上行ってるー!?」
「なにを言ってるんですかMADさん! やるならとことんですよ、とことん!」
「く、さすがですオーナー! 分かりました! じゃあ俺も投入しますよ! 奥の手を!」
「奥の手?」
「 眼 帯 」
「しまったあああ!? やられたああああ!?」
「ふふふ、首筋にゃあスカーフも巻いちゃいますからね!」
「おのれ、決闘だー!」
「ふふ、先に抜きな?」
「しまったあああ!? なんか僕負けそうー!?」
「うひょひょひょひょひょひょ!」
「ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ!」


 そして、盛り上がる我らの後方で。


 奥様は、あきれたような視線で我々を見ていたのであった。


 本日の教訓:男の浪漫は、女にゃ我慢。

 完。

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